大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿34
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いつもおろされていた髪は後ろにまとめられ職人技であろう細かな装飾の施された簪で飾られている。そしてこめかみから左右垂らされた房が、その髪質の良さを十分にアピールしていた。
肌はまるで日の光を集めているかのように美しく反射し、乗せられた頬紅が可愛らしさを存分に引き立たせていた。
いつも以上に潤んだ瞳と、唇にさされた紅が男を刺激する。
一目で上等なものとわかる振袖や小物も、決して嫌みにならずにあつらわれている。

これがあの、変態で、呪い好きな人形かと我が目を疑った。

人形は籠から出たところで立ったまま動かない。時間が押していることは知っているはずだがなぜ。
早くこちらに来いと、土方は今しがた乾いた喉で声をかけようとした。


「気が利かねェな〜。そんなんだからモテねぇんだよお前らは」


松平は相棒である拳銃を懐にしまうと、歩きだした。そして立ったまま動かない人形の右隣に並ぶと、左肘を差し出した。


「こんなオジサンのエスコートでもいいかな?人形ちゃん〜」
「ええもちろんです」


ごく自然な動作で人形は開いた脇に右腕を通し、そこに左手を添えた。どこからどう見ても完璧にご令嬢だ。
二人が歩き始めると、タクシーの運転手は腰を深く折り曲げて見送る。


「いやぁ人形ちゃんビックリしたよぉ〜!何せ母ちゃんの若い頃にそっくりだ」
「まあ光栄ですわ」
「いやホントホント。惜しいなぁ、俺があと10歳若ければ口説いたのによお〜」
「あら奥様に言いつけますわよ」
「おおっとこりゃ勘弁」


仲睦まじく料亭へと足を踏み入れる二人をただ黙って見送るしかない男達。


「あの、局長副長」


いち早く復活した山崎の声に応える者はいない。未だに目の前で繰り広げられた光景に処理が追い付かない。


「良いんですか?なんかやる気マンマンですけど人形」


その一言が空しく響いた。





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