大江戸監察事件簿
□大江戸監察事件簿33
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まずは浴室に放り込まれた。
お妙の言いつけを守り、たっぷりの時間をかけて全身を磨く。体が芯から温まり、何もつけなくても頬が上気していくのがわかる。
風呂から出るとこれでもかと言うほど顔面に色々と塗られる。体は保湿剤とボディパウダーをはたかれた。
全身の傷跡をうら若い娘たちの目前にさらすのは気が引けた。大小さまざまな傷跡の中には敵の刃による裂傷も、痛めつけられた時に受けた火傷の跡も、創痕も、何もかも含まれている。
人形がパトロールなどで表舞台で出るようになったせいか、キャバ嬢たちの間で真選組唯一の女隊士の噂はよく話題になっていた。そして嫉妬の対象としても。
「汚いもの見せちゃって、ごめんなさいね」
困ったように笑う人形に、娘たちは、どうすればよいのか、人形にどう声をかけたらいいのか戸惑っているようだった。
『一度入隊してチヤホヤされてみたい』などと軽口を叩いていた自分達だったがよくよく考えばわかることだった。
男所帯の真選組の中で、他の隊士たちと混ざっても何の支障もない人物が、どうして自分たちと同じような娘だと言えようか。自分たちが新しいコスメやらテレビの中の俳優に騒いでいる時に、この人は何をしていたというのだろうか。
「人形さん、新しい傷はないかしら」
止まった空気がお妙の一言でようやく動いた。
「それは大丈夫。最近はパートナーもドジ踏まないからね」
「良かったわ。沁みたらいけないと思って。ということでみんな!遠慮はいらないわ!じゃんじゃん保湿して!着物から出そうな部分はコンシーラーで消しちゃいましょう!」
肝の据わった娘だと人形は笑う。
引くわけでも、変に気をつかいすぎるわけでもないごく自然なお妙の反応に、これが愛する人物が愛する人なのだと、不思議と穏やかな気持ちになった。
お妙の一言は大きな影響力があった。今まで戸惑っていた娘たちも「ここは塗っても大丈夫?」「痛くない?」など声をかけながら作業を再開する。
(なんか、くすぐったいな)
同性に囲まれて自分磨きという初めての体験。その温かさに人形は身をゆだねた。
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