大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿32
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「もう一度ちゃんと教えてくださる?人形さん」


どうしてこうなった。
斜め向かいに座る笑顔の娘の威圧感に、年上のはずの人形は身を縮めた。

先ほどの騒動の後、男に絡まれるのが嫌なら女が多いところに行けば良いという思考に至った。何せ酔っ払いしかいない。止める者もいない。
適当に入ったキャバクラにまさか思い人の思い人、お妙がいるとは。


「つまり、お国のためとかなんとか恰好良いこと言いながら、人形さんを人身御供にささげてお見合いさせて自分たちは何も苦労せずに安全な所宣言。さらにはそれをクソゴリラから告げられて死のうとしていたところを9位いえ、月詠さんに止められて今に至ると」
「いやちょっと」
「まあ大体その通りじゃ」


真選組が思った以上にボロクソに言われ、なおかつ自分が自殺未遂になっているため多少訂正しようとしたが無駄に終わった。


「あんのクソゴリラいっぺん死んで来いやァァァァァァァ!!!」

バキッ


お妙の握りこぶしが机に振り下ろされ、見事なヒビが入った。煙が出ているのは気のせいだろうか。


「人形。それでお主はどうしたいんじゃ?」
「え?」


背もたれに腕をかけた月詠から、まさかそのようなことを問われるとは思っていなかった人形は面食らう。


「お見合いは受ける気があるかということじゃ」


吐き出すだけ吐き出してすっきりしたのか、昼とは違う表情で人形も背もたれに身を預けて天井を仰いだ。


「まあ仕事だって割り切るよ。タダメシ食べて、適当なところでさよならすれば良いんだし」
「そうか。お主がそう言うならわっちは何も言わん」


人形はグラスのお酒を飲み干す。月詠も煙管をふかして静かな時が流れた。


「甘いわ人形さん…」
「え?」
「甘いってんのよォォォォ!!!」


修羅だ。修羅が降臨した。


「そんなんじゃ結局女が泣き見て終わりよ!私の腹の虫が収まらんわ!自分の顔見て出直せゴリラァァァ!!!」
「お、お妙さん落ち着いて!」


「というわけで、折角なら男どもに泣いてもらいましょう」


指を立てて提案したお妙はそれはそれは天使のような笑みを浮かべていたという。





END
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