大江戸監察事件簿

□大江戸監察事件簿31
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「うわっ混んでる」
「そりゃそうだよ人形。新しくオープンしたばっかりなんでしょ?」
「予想以上だった」


モールに吸い込まれていく人口の多さに人形は顔をしかめる。
意を決して中に入れば、きらびやかな電飾、店に呼び込む店員の声、聖夜を思わせるミュージックが俺たちを襲った。
人形の顔がさらに凶悪になる。
かわいいー!とかはしゃぐタイプではないって知ってたけど、せめてもうちょっと眉間のしわをゆるめませんか人形さん。


「おっと、ごめんなさい」
「あ、すみません」


立ち尽くす人形に大きな袋がぶつかる。


「只今家電20%オフ!タイムセール中でーす!」


今まさに人形にぶつかった人が出てきたその家電量販店の前で、オレンジの法被をきた男がメガホンで叫んでいた。


「山崎!家電セール中だって!」
「え?なんか欲しいものあった?」
「DVDプレーヤー。ほら、山崎も使うでしょ。主に夜に」
「ちょっと待てェェェェ!!!」


それってアレだろ。局長のための研究ってやつだろ。確かに今はノートパソコン使ってて起動がいちいち面倒だけども!俺もお世話になる時はポータブル欲しいなって思ってたけども!


「画質きれいだったらモザイクも透けて見えるかもしれないじゃん」
「透けるかァァァ!!!」
「諦めるなよ山崎!」
「お前は一体何目線だ!!!」


とにかく人形を黙らせるために店に入ろう。
混雑する人混みを利用して俺は人形の手をとろうとした。そう、とろうとしたんだ。


スイ スイ スイ


そうですよね。これくらいの人混み、なんてことないですよねー。
浮いているような足取りで店に入る人形にため息をつきながら続いた。


「山崎すごいよこれ!画面大きいしすっごくきれい!」


人形が手に持つポータブルDVDプレーヤーは確かに手ごろな大きさの割にスペックが高そうだ。俺も持ってみたけど、重量もさほどない。


「うーん、でもちょっと高くない?」


俺としては2万以内で押さえて折半して1万くらいを想定している。今持っている商品はその値段を軽く超える。


「でも20%オフだからー」


人形が考える素振りをみせる。そうすると?大体?二人して頭の中でそろばんをはじく。


「4960円ね」「1万9840円だね」

「…」
「…」

「人形、それじゃあ80%オフになるよ」
「知ってるよ。うっさいな」


真剣に間違えたらしい人形が恥ずかしそうにプレーヤーで顔を隠した。
あああああ…っ!
たまにこういうミスをおかすところがたまんないのは男として当然だ。悶えたい。今すぐもんどりうって悶えたい。







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