大江戸監察事件簿
□大江戸監察事件簿35
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どうも真選組監察方、山崎退です。
今日も副長のマヨネーズを買いに行かされたり、局長を回収に行ったりと、無事1日が過ぎた。
今は入浴をすませ、就寝前の各々の時間を過ごしている。俺は布団に横になり、新しいラケットのカタログをめくっていた。
「んー?んー?」
衝立の向こうから何とも言えない声がする。
「人形どうしたのー?」
「いやぁちょっとねぇ」
衝立越しにとりとめのない会話をするのもいつものこと。
人形は俺に返事をするとまたうんうん唸り始めた。
「やっぱ鬱陶しいな。ちょっと山崎ー」
「なにー?」
呼ばれたので片手で衝立を動かす。人形は鏡台の前で正座をしていた。
「ちょっとさー、前髪伸びてきたから切ってくれない?」
人形は人差し指と中指で前髪をはさみ、チョキチョキと指を動かしていた。
「ムリムリ!」
「大丈夫だよ、パッツンに切れば良いだけだから簡単簡単」
「だったら自分でやんなよ」
「いやそうしたいんだけどね、鏡見ながらだとどうも勝手が」
確かに鏡を見ながら指を動かすのはやりづらい。それはわかる。
「しょうがないなぁ。失敗しても怒らないでよ」
「頼んだ」
俺は人形の正面に片膝をつき、鏡台に用意されていたハサミを手に取った。
「大体眉と同じぐらいでいいから」
「はいはい」
確かに今の人形の前髪は睫毛にかかる長さで、これでは目に悪い。
俺はいきなりジャキンと行かないように、まずは毛先の方だけにハサミを入れた。
「ちょっとずつ切るからね」
「おうよ」
人形は胸の前で紙を広げ、落ちる髪の毛を受け止める準備をする。
ジャキン パラパラ
長さにして2ミリほど毛先が落ちてくる。これくらいずつなら何とか上手くできそうだ。
ジャキン パラパラ
紙の上に細かな毛が落ちていく。
「ヤバイ山崎」
「え?何が?」
「ちょ、ヤバイ、一回ストップ」
「え?」
「っっっふぇっくち!!!」
俺の顔面に切られた髪の毛がおもいっきりかかった。かゆい。
「あースッキリスッキリ。続きお願い」
人形は一度ティッシュで鼻をかみ、顔についた細かな毛を手で二、三度はらった。
「ごめん人形」
「は?」
「もう切るとこない」
人形の前髪は眉の上5センチほどの高さでなくなっていた。
「ふざけんな山崎ィィィ!!!」
「だから謝ったじゃん!元はと言えばくしゃみした人形が悪いんだろ!?」
「お前、ちょいその前髪貸せや」
「やめてー!ハサミしまってェェェェ!」
もちろん体術で人形にかなうわけでもなく、俺は簡単にマウントポジションを奪われた。男としての沽券が…うう…。
両腕も人形の両足に挟まれ、完全に身動きがとれない。
「さて、どこがイイかしら?ここ?それともここ?」
「やめてェェェ!股関だけはやめてェェェ」
ハサミが俺の体をなぞっていく。ある意味オイシイ状況なのだろうが、そんな気持ち味わえるわけがない。
「覚悟決めなさい」
凄む人形を思わず見るが、ほぼ前髪をなくして色っぽく微笑む顔面のシュールさに…
「ぶははははは!ヤバイ人形!その髪の毛で迫られるとホントヤバイ!」
お腹が痛くなるほど笑う。いや、本当に面白すぎる。
「あはははは!あは、あは、はー…」
ヤバイと気づいた時には絶対零度の眼差しの人形が俺の前髪を草抜きのように掴みあげていた。
「死にさらせ」
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