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□異文化と他人事
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 お昼を告げるチャイムが鳴り響く。三國学園の食堂では、多くの生徒と幾人かの教師が昼食を取っている。
早めに昼食を摂った孫尚香は、ざわめく食堂でいくつかの写真と睨めっこしていた。それに気付いた小喬は、背後から忍び寄り一枚の写真を奪う。
「あれぇ? なんで戦国学園の人が写ってるの?」
 そこには、三國学園剣道部とよく練習試合をしている戦国学園の生徒が写っていた。机に並べられた他の写真にも、見知った顔が写っている。それも、学外からも美男・美女と名高い面々ばかり――。
「んー、戦国学園にいる友達の、稲に頼まれたのよ。良く知らないけど、イベントするからこの写真に写ってる人達に似合う衣装を考えてくれって」
 困り果てた彼女はノートに衣装のデザインを適当に描いていく。いいデザインが出来上がるわけでもなく、ただの落書きが出来上がっていくだけである。
「おや、尚香さん。何を描いておいでですか?」
 そこへ、美術教師の張コウ先生がたおやかに踊りながら登場した。何処からか音楽が流れてくる、わけはない。ただ、リズミカルにシューズを鳴らし、仰々しく表現されたダンスは宛らミュージカルだ。
 孫尚香と小喬は、生温い笑みを浮かべながら返答する。
「戦国学園でイベントをするらしいんです」
「その衣装を、考えてるんだよね」
 それを聞き、思案する張コウ先生。食堂へ入ってきた音楽の蔡文姫先生が厨房へラーメンを注文している。
「ああ、蔡文姫先生。こちらにいらしていただけますか?」
 張コウ先生に呼び出されて嫌な予感しかしない蔡文姫先生は、一瞬躊躇したが、生徒のどこか懇願するような視線に気付き、ラーメンを持って近付いていく。
「何か、私に御用でしょうか?」
 当惑した様子で席に着く。張コウ先生は優雅な動きで写真とノートを指差す。
「戦国学園でイベントをするらしいのです。貴方の才能は、私も一目置いています。私達の美的センスで、彼らに見合った衣装を提案いたしましょう!」
 一人で突っ走る張コウ先生。最早誰にもとめられそうにない。孫尚香は、案がまったく決まらないよりは、打開策を二人の先生に任せた方がいいような気がした。仮にも、芸術系の先生なのだから。
「そう、ですか。どのような物がいいでしょうか」
「やはり、私達が普段着ている服の方が考えやすいですし……、皆さん若いのですから、ここは思い切り肌を出して行きましょう!」
「でしたら、こうしたらどうでしょうか」
 孫尚香にノートを破っていいか訊ね、許可を得て破く。そこにさらさらと写真を見ながら要所で特徴を捉えた簡単な似顔絵に、簡単な人物を描いていく。
「これに衣装を書き加えていくのです」
「あぁ、それはいい!」
 残りは張コウ先生が描いたのだが、美術教師の先生は忠実に模写しようとして、生徒に全力で止められたため、仕方なく簡単に描いていった。蔡文姫先生はゆっくりラーメンを食している。
「さあ、思い思いに書き込んでいくのです!」
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