裏文章
□ゲリラ豪雨〜立花〜
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バケツをひっくり返したように降る、雨、雨、雨。 むしろザーっという激しい音しか聞こえない。
俺は帰宅途中に降られて、豊臣学寮より近い位置にある元就公の家に駈け込んだ。
着替えとタオルを貸してもらい、頭を拭いていると携帯にメールが入った。
『今日元就の家に避難する』
ギン千代からだ。あいつも降られたのか。あまりにも同じ動きをするので、思わず吹き出してしまった。
雨の音がすごいので、執筆中の元就公に近寄り話しかける。
「元就公、ギン千代もここに避難してくるみたいです。」
「本当かい?着替えを用意してあげなくちゃねえ」
「ギン千代は稲殿と出かけてたので、かなりの濡れ鼠でしょうね」
「そうなのかい?じゃあお風呂も沸かして、ねねさんにも連絡しなくちゃ」
確かにこの雨で帰るなら泊まった方がいいだろう。 パタパタと忙しなく動く元就公を見ながら、凄まじく降る雨を見る。
じきに雷も鳴りだすかもしれないと考えていると、かすかに玄関から声がした。
ギン千代だ。玄関まで出迎えに行くと、驚いた顔をされた。
「宗茂、貴様も降られたのか」
「ああ、奇遇だな」
そうして、取り敢えず自分の頭を拭いてたタオルで、ギン千代の体と頭を拭く。
すると元就公が戻ってきた。
「わあ、ギン千代。びしょ濡れじゃないかい。お風呂沸かしたから入るといいよ。私は居間にいるからね、何かあったら呼んでおくれよ」
「ああ、その…ありがとう」
素直に礼を言って風呂場に向かうギン千代と、さっさと執筆に戻った元就公を見る。
そして耳には相変わらずの雨の音。
俺はそのままギン千代の後ろをついて行く。風呂場の前でギン千代が振り返った。
「…何のつもりだ、宗茂」
「俺も一緒に入ろうかと思って」
ギン千代が恒例の如くふざけるな、と言った。
別にふざけてないんだがな。そう言おうとすればくしゃみが出た。
ギン千代がきょとんとした顔をする。
「私はいいから先に入れ」
いや、それはないだろう。ギン千代が風邪でもひいたら困る。
「お前が入らないなら俺も入らない」
大体、と切り出し追い打ちをかけていく。
「大体そんな恥ずかしがる仲でもないだろう?」
「…選択肢がひとつしかない気がするのだが…」
ギン千代は俺が風邪をひかないか心配して先に入れと言う。
だが俺はギン千代が先に入らねば入らない。
選択肢はひとつ。普段なら一蹴されるが、今のギン千代は俺が風邪をひかないか心配している訳で。
「だから一緒に入ろう、ギン千代。ああ、背中を流してくれ」
耳まで真っ赤にしているところを見ると、一緒に風呂に入ってくれるらしい。