賜り物

□圷座様からの賜り物
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   STAND BY ME



「おまえはいつまで俺のそばにいてくれるんだろうな」

布団の中から、宗茂が緩慢に手を伸ばす。私はそっとその手を握った。

「何を弱気になっている、風邪くらいで」

――宗茂は風邪をひいていた。

常より幾分蒼い顔色で、宗茂が弱々しく笑う。
それが随分儚く見えて、左手で宗茂の手を強く握り締め、右手で宗茂の頬を撫でた。
嬉しそうに摺り寄ってくる様はまるで私の好きな猫のようで。
(……愛しくなってしまう、だなんて)
私は邪念を振り払うべく、頭をぶんぶん振った。

「武士とはいえ、いつでも強い訳じゃないさ」

風神が、ふぅと起こした溜息という風。

「……おまえは偉いな。」

ギン千代は、何時でも強くて、何時でも優しい。そう言って宗茂は目を細めて笑った。

――私だって、何時でも強い訳ではない。
宗茂が倒れたという報せが、どれだけ私の心を抉ったかなんて、宗茂はきっと知らないだろう。
宗茂が病に伏せっているという今この瞬間瞬間に、不安や焦りは増しているというのに。
宗茂はなにも気付きはしない。
私も決して気付かせはしない。

特に今。そんな自己主張を通して、宗茂に気を使わせるのは得策ではない。解っているから、私はただ頬を撫で続けた。

――弱い所を他人に見せるのがどこか怖かった。

幼少の頃から立花の当主となるべく育てられてきた。
男と同等に戦える力も持っている。
何時でも立花の誇りを持ち、冷静であり続けることは、私に定められた宿命だったから。
だから、

「ギン千代……何故泣いている?」
「え、」

慌てて目へと手を遣ると、自覚無く溢れた涙が頬を濡らしていた。
恥ずかしい。
人前で泣くなんて。
今まで無かったことなのに。

(……宗茂の前だか、ら?)

ぐいっと拭いても次々零れ出る涙。

「立花は泣きなどしない!」
「……そうか。悪かった、見間違いだ」

宗茂が急に私の身体を引き寄せる。
思わずどっと倒れた身体。
宗茂の上に、折り重なるようにして。
離れようと思った瞬間、きつく抱き締められ身動きが取れなくなった。
――次の瞬間、触れた互いの唇。

「なっ!」
「可愛いな、ギン千代は」
「かっ可愛くなど…!」
「弱い所、もっと見せて欲しいよ、俺は。」

二の句が継げない程の動揺。
何故だか止まらぬ涙が布団に染みを作る。
伝わる鼓動。動悸が激しい。体温もいつもより高い。
その全てが、これを愛情だと錯覚させた。

「……早く風邪を治せ、馬鹿。」
「治るさ。お姫様がずっと傍に居てくれるなら」
「離れはしない」
「ああ、頼む。」

ゆっくりと再び重なった唇。
熱い吐息が絡み合い、感染したように身体が火照った。

「好きだ、ギン千代。」
「……もだ」
「何?」
「私もだと言ったんだ、何度も言わせるな馬鹿!」

全力を以て抱き締めてやる。
本気で痛がる姿にそっと笑顔を浮かべて。


(すきだぞ、宗茂!)
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