裏文章
□スパイスは如何?〜立花の場合〜
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――ガラガラ
元就公の家の玄関を開けて、先に来ている筈のギン千代にただいまと声をかけて居間に入る。
すると、身体が傾ぐギン千代が見えて慌てて抱き留めた。
抱き留めた彼女は頬が上気し、うっすらと汗をかいて喘いでいた。
熱でもあるのかと思い、喉が渇いてそうな彼女に水を用意する。
汗で張り付いた前髪を除けるとギン千代の大きな瞳が俺を見た。
取り敢えず気がついて、俺はほっと息を吐き出した。
「ギン千代、水を飲め」
そう言って彼女を片手で抱き抱え、水の入ったグラスを口元に持っていくと、平時の彼女からは出てこないだろうセリフが飛び出した。
「…飲ませて」
最初は熱でもあるのかと考えていたが、どうも違うらしい。
潤んだ瞳で熱っぽく俺を見るギン千代は、色を孕んだ気配を纏っている。
俺は水を自分の口に含み、彼女の唇に自分の唇を重ねて、流し込んだ。
口移しで水を飲んだギン千代は、もっとと首筋に腕を回してきた。
今なら魔王の妻と張れそうな程色を纏った彼女に、思わず生唾を飲んだ。
だが取り敢えずはギン千代に何が起こったか確かめるのが先だと、腕の中の彼女にやんわり問いかける。
「何か変わったことをしたか?変なものを口にするとか…」
「…変わった調味料があったのだ…」
俺の問いにポツリと一言答えて台所を見る彼女の視線を追って、台所に行こうとするとギン千代が服の裾を掴んだ。 俺が頭を撫でてすぐ戻ると言うと渋々放してくれた。
台所に元就公の家に不似合いな小洒落た小瓶を見つけた。
瓶を開けて舐めてみるが味は無い。訝しんでいると小瓶に書いてある文字に目がいく。
「…これは…」
なんで元就公の家にこんな物があるのか不明だが、これが何でギン千代がどういった状態なのかは把握できた。