短歌

□私は感動的なラブソングよりも安っぽい恋愛小説の方が欲しかった
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私の好きな人は、左隣の席に座っている男の子。

いつも何かとあると私に話し掛けては、面白い話をしてくれる。

そんな彼が私は大好きで、きっと彼も私の事を好きでいてくれている………と

馬鹿な私は思っていた。









私は感動的なラブソングよりも安っぽい恋愛小説の方が欲しかった













「なぁ、今日一緒に帰らねぇ?」


目の前にいる彼、藤堂平助君の言葉に、私は驚いて目を見開いた。
その私の表情を見た平助君は、申し訳なさそうな顔をしながら話す。



「わ、ワリィ…急に言われても困るよな…」



平助君は自分の頭を掻きながら苦笑混じりに言う。



「え、あ、だ、大丈夫だよ、私の方こそごめんね…ただ、急だったからビックリしちゃっただけだよ」



そうやって私が笑って見せると、平助君も笑顔で「サンキュ」と言ってくれた。



そんな彼に私はまた、恋をした。



「っし、他の奴等に帰るところ見られたら厄介だし、走るぞ!!」



「あ、うん!」



私達は教室から猛ダッシュで走った。


走ってる間、時折何度か振り替えっては私に笑顔を向けてくれる平助君に、私は何度もときめいた。



「っあー!走った走った!!」


「げほっ…平助君、急に本気で走るんだもん…本当に疲れた…」


「悪ィ、悪ィ」


笑いながら私に謝る平助君。


どうしてそんなに格好いいの?


私をこれ以上貴方の深みに誘わないで…


「っじゃあさ、あそこの公園のベンチに座ろうぜ!!」


そう笑って言ってくれる。


嬉しい…嬉しいよ……?
だけどね、色々な事がトントン拍子に事が運びすぎて逆に…怖いよ………


二人で違う味のジュースを買ってベンチに座る。
私の左隣には勿論平助君。

学校での距離とは異なる近さだから私の胸は爆発寸前。

プシュッ!と気持ちのよい炭酸の音にドキッとする。

平助君がただ開けただけなのにね

私は自分の買ったペットボトルの中で揺れるオレンジの香りに口付けた。

フワッと風が吹くと、隣にいる平助君の家の匂いが私の鼻孔を掠める。

その度に私の心臓はドキドキと音がして、私の心臓が張り裂けそう。

そんな私を、口内に広がるオレンジジュースの香りが落ち着かせてくれた。





「なぁ…名無しさん。お前、さ…確か雪村と仲良いよな……?」





突然な質問に私は動揺する。




なんで…なんで千鶴ちゃん……?



どうして、私にそんなことを聞くの……?



私の胸中を知らない平助君は、次々に言葉を紡いでいく。








「オレ、雪村が好きなんだ…」








私の目の前は暗くなった…それと同時に頭に来る鈍痛。




誰が…誰を……?




平助君が…千鶴ちゃん…を…




嘘だと思いたい筈なのに、頭の中に居る私は言うことを聞いてくれなくて、ただ冷静だった。

あぁ、そう言うことか…
別に平助君は千鶴ちゃんと仲良い子なら誰でも良かったんだ…

私、馬鹿だな…



「その、だから、さ…雪村の事、教えてくれねぇ……?」



もう、聞きたくない…
聞きたくないよ…



「うん、いいよ…でも、私もう帰るね…お母さんが待ってるから…またね…」



涙で視界が霞む前に言い切る。
そんな私に平助君が何か言おうとしてたけど、私はその言葉から逃げるようにして走った。


走って走って走って………息が切れても、足が縺れても走って…

そうしていると、いつの間にか小高い丘に居た。


嗚呼、此処は平助君に教わった彼の秘密の場所ではないか……

確か彼は言ってたな…




「此処から見る景色は最高なんだよ!!名無しさんも見てみろって!!」




「確かに綺麗だね…平助君…」




「でも、きっと私と見ることはもう無いんだろうね…」





赤々と燃える夕日を見れば、涙で滲んでぼやけている。






「あ…れ……?私、なんで泣いてるんだろ…」




私は湿った気分を上げるためにケータイにイヤホンを差して音楽を流す…





「泣かない、泣かない…泣いちゃダメ……!」





自分に言い聞かせるために呟いた私の声は想像以上に震えていた。






大好きだったよ…平助君





心の中で呟いた瞬間、イヤホンから流れる曲は失恋のラブソングだった……





私は感動的なラブソングよりも安っぽい恋愛小説の方が欲しかった
(私の胸に残ったのは)
(貴方への悲しい想いでした)
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