短歌
□恋焦がれ、涙溢れ
1ページ/2ページ
「歳三さん……」
室内には私の響く声。
少し生暖かい風が私の頬を撫でながら、流れていく。
外を見遣れば、沢山の鯉が屋根を越えて優雅に泳いでいる…
五月五日…
そう、この家の主である、土方歳三の誕生日だった……
「とし、ぞっ…さん……」
一体何度名前を呼んだのだろう…
涙で上手く呼べないその名前は、私の喉の奥で引っ掛かって聞こえない。
それでも、私は待っている。
蝦夷共和国が無くなり、彼が戦死した事を伝えられても、私は認めない…
だって、あの人は言った、
「すぐに帰ってきてやっから、待ってろよ?名無しさん」
そう言って下さいましたよね…?
「…………………歳三さん…知っていますか?この間永倉さんが来てくださったんですよ?お酒の弱いあなた様にって、一杯お酒も下さいました…いたずらっ子みたいな笑顔で…」
ポタリと涙が畳に落ちる
「だから、だから、早く帰ってきてください…また、私の頭を撫でて、ギュッと抱き締めて下さいまし…名無しさんは、ずっとお待ちしますから…」
何度季節が廻ろうと、何度時代が変わろうと、私はあなたをお待ちします…
「名無しさん……」
どこか遠くで貴方が呼んだ気がした…