短編-T-

□夕立のりぼん
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隠し事がしたいよ。
もう二度とあの頃には戻れないの?



『夕立のりぼん』



帰ろうと校舎の外に出たとき突然の夕立に降られた。
急いで校舎裏の影に雨宿りして空を見上げると隣から息を切らせて男の子が走ってくる。


「、幸村くん。」

「佐藤さん、君も雨宿り?」

「うん、いきなりで驚いちゃった。多分夕立だからすぐ止むと思うけど…。」


二人並んで空を見る。
止みそうな気は、まだない。


「っ!さ、佐藤さん!」

「え?何幸村くん。」


驚いた声を出した幸村くんに目を向けると彼は顔を真っ赤にして私に自分のブレザーをかけた。
どうやら雨に濡れてブラウスが透けていたらしい。


「あ、ありがとう。」

「い、いや…。」


二人見つめ合って固まる。
少しずつ彼と私の距離が短くなる。
いけない、こんなこと彼女に悪い。頭の中じゃ分かってるのに逃げる事も拒む事もできない。まるで金縛りにあったかのよう。
近づいてくる幸村くんの顔に合わせてゆっくりと瞳を閉じる。


――君と私の距離が0になった。


たった一瞬唇が合わさっただけ、でも永遠とも思えるその時間。
二人顔を見合せ照れたように笑う。
心の中で思っていた、隠し事がしたいと。親友である彼女にも言えないような隠し事を。
それが今出来た。


「内緒だよ?」


微笑んで幸村くんは私の唇に人差し指をあてる。
"内緒だよ"その響きは中学3年、幼い耳を何十回刺激したのだろう。
その指先から与えられる刺激がきっとトラウマさえ忘れさせてくれる気がした。
常識と非常識なんて所詮は紙一重の距離にあるのだ。
二人見つめ合って笑う。


この優しいキスに浮かれていたのかもしれない。
私達を見ていた影があったことを私は気付けなかった。




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