ブック

□赤
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どすどすどす…
忍たま長屋の廊下を乱暴に歩く音が聞こえる。
自室で本を読んでいた中在家長次の意識は、近づいてくるその足音に向けられる。
(小平太、帰ってきたか…)
読書をするなら邪魔が入らない図書室で。というのが常だったが、
同室者が任務に出ていたので、今日は1日、長屋での読書を決め込んでいた。

どす…
バン!!
足音が部屋の前で止まると、勢いよく戸が開かれた。
「長次っ!ただいま!!」
「…。…。」
(あと、もう少し読めば切りの良いとこまで…)
長次は内心で思う。

「なあ!長次、ただいまって言ったら 『おかえり♪』、だろ?」
お構い無しに読書を続けていると、七松小平太は、構ってくれ!と言わんばかりに、首に纏わりついてきた。

任務帰りの同室者からは、草か花か…、乾いた落ち葉のような、なんとも言えない大地の香りがした。

「…。 ふぅ…」
長次は小さく溜め息をもらすと、本の続きを諦めて、愛犬さながらの小平太に付き合うことにした。
「…おかえり。」
静かにそう言って小平太を見ると、彼はにっこりと笑った。
「やっとこっち向いたな。 へへ、ただいま!!」
小平太は、満足したのか体を離した。

「…。それは、彼岸花だな。」
ふと、戸口のあたりに手折った彼岸花の束が無造作に置かれていることに気付く。
「そう!綺麗だろ?伊作に頼まれたんだ!」
「…伊作に?」
「あいつ、いま風邪引いて寝込んでるだろ。 外出ついでにこの花を一束取ってきてくれって頼まれたんだよ。 薬にするとか、なんとかで…」
小平太は私服を脱ぎながら言った。

「長次にもやろうか?」
小平太は彼岸花の束の中から一本引き抜くと、ふりふりと花を振ってみせた。
「…いらん、そんな不吉な花。」
長次はぶっきらぼうに答える。
「知ってるか小平太。 そいつは死人花とも言うんだ。 その花の色は血染めの赤なんだぞ…!」
「…。 長次のばーか。 そういう発想が暗いってゆうんだよ! この色はなあ! 太陽の赤だっ!」
小平太は、受け取れ!と云わんばかりに、長次の胸に花を押しつけると、手を引いて長屋の外に連れ出した。





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