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□十六夜の月
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円の縁をわずかに欠いた月が、海を照らしている。
陸から海に吹き降りる風は無言で、髪を撫ぜる。

隣を歩く潮江文次郎も、先刻から暫く押し黙ったままだ。
たぶん、自分と同じことを考えているのだろう。
そんなことは、敢えて顔を見ずともわかってしまう。
今回の任務は何とも後味の悪いものであった。


数日前のこと…―――

「兵庫水軍から依頼があっての…」
学園長は、そう切り出すと、表情を曇らせた。

「どうやら水軍内で、ドクタケに内部情報を流している者がおるらしいのじゃ。」
「まさか!」
「そんな…!」
庵に呼ばれたわたし達は、依頼の内容を聞いて狼狽した。

「おまえ達も知ってのとおり、兵庫水軍は仲間意識も結束も強い。
互いに疑いをかけ合えば士気にも影響が出かねん。 そこでじゃ、
立花仙蔵、潮江文次郎!
第三者である我々が、この件について密かに調査することになった。」
「…は!」
「こたびの任務は、内通者を見つけて、捕捉することじゃ。
その後の処分は水軍に任せればよい…」

…―――


兵庫水軍には、海洋実習の際にも、大いにお世話になった。
面子をよく知るだけに、その中に内通者がいるということは、本当に信じがたいことだった。

一方、ドクタケでは水軍創設の動きが活発化している。
そのために、船の設計図や海運などに関する情報収集に躍起になっている、という話も聞いたことがある。

手段を選ばないドクタケのことだ…。依頼を聞いた時から嫌な予感がしていた。




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