ブック
□傷痕
7ページ/10ページ
髪は雨に濡れたせいで、すっかりクシャクシャになってしまった。
絡まった髪を解こうと躍起になっていると、自分の方を見つめる与四郎の視線に気が付いた。
「おめの髪、こんなに長かったんだぁナ…」
そう言うと 与四郎が髪をそっと撫でる。
「! …。」
与四郎がその後、何をするか…
予測がつかなかったと言ったらたぶん嘘になる。
拒もうと思えば、拒めた。
…と思う。
「…。」
与四郎は伊作の頬をそっと撫でると キスをした。
それは、あそびとかではなくて、ひどく優しくて悲しいキスだった。
-----違うんだ。
拒めなかったんじゃなくて。
ほんとは動けなかった…。
何故なら、自分を見つめていた与四郎の瞳の中の、
愛おしさと懐かしさを孕んだ哀愁に気づいてしまったから。
「与四郎…」
「すまねぇ。寝る…。」
与四郎は短く言うと、気まずそうにくるりと背を向けて片膝を抱えて小さくなった。
「…。」
伊作も肩のところで髪を一つに束ね直すと、両膝を抱えて顔を埋めるようにして、眠りについた。
※ ※ ※