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□傷痕
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髪は雨に濡れたせいで、すっかりクシャクシャになってしまった。
絡まった髪を解こうと躍起になっていると、自分の方を見つめる与四郎の視線に気が付いた。

「おめの髪、こんなに長かったんだぁナ…」
そう言うと 与四郎が髪をそっと撫でる。

「! …。」

与四郎がその後、何をするか…
予測がつかなかったと言ったらたぶん嘘になる。
拒もうと思えば、拒めた。
…と思う。

「…。」
与四郎は伊作の頬をそっと撫でると キスをした。
それは、あそびとかではなくて、ひどく優しくて悲しいキスだった。

-----違うんだ。
拒めなかったんじゃなくて。
ほんとは動けなかった…。

何故なら、自分を見つめていた与四郎の瞳の中の、
愛おしさと懐かしさを孕んだ哀愁に気づいてしまったから。


「与四郎…」

「すまねぇ。寝る…。」

与四郎は短く言うと、気まずそうにくるりと背を向けて片膝を抱えて小さくなった。

「…。」

伊作も肩のところで髪を一つに束ね直すと、両膝を抱えて顔を埋めるようにして、眠りについた。




※ ※ ※






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