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□傷痕
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「ターちゃーん! こっちだーヨーっ!」
上空には一羽の大きな鳥が旋回しており、与四郎はそれに向かって手をブンブン振っている。

バサバサバサバサ…
鳥はこちらに向かって一気に降下すると、与四郎の左腕を止まり木のようにしてとまった。

「伊作!紹介しよう! こいつがオラの相棒、鷹のターちゃんだ。」
「…! すごいな…!」
伊作は間近で見る鷹の迫力と、この獰猛な生き物を遣い馴らす与四郎に同時に驚いた。

「お!でかしたぞ、生け捕ってきたか! 今日の褒美は二倍だーナー」
見ると、その鷹は片方の足の爪で白い鳩を掴んでいた。
「それは…、伝書鳩…?」
「そうだ。 伊作、悪いが捕まえといてくれ」
与四郎は、伝書鳩を一旦伊作に預けると、鷹に餌を与えて空に還した。

「伊作を迎えに行く途中でこの鳩を見かけてナ。気になったんで、ターちゃんに狩りに行かせたんサー。 さて…」
与四郎は、伝書鳩の足に着いていた手紙を開いた。

「ふぅん…、どうやらドクタケのものだ。
…― 戦況悪し、援軍三千ほど求む。とさ。 あとは、相手軍の陣形が描いてあるべ。 さて、伊作どうする?」
「うん…。ドクタケは確かナメコ城と交戦中だ。ナメコ城と忍術学園は友好関係にあるから、ドクタケに有利な情報なら、渡したくないよね。」

「じゃあ。こうするべか?」
そう言うと与四郎は、徐に懐から半紙を取り出し、岩の上に広げた。
そして丁寧に『おいしい芋煮の作り方』と書き出すと、さといもの料理法を綴り始め、
最後にドクタケのサインを、元の密書にあったのとまるで同じように書き写した。

「よし、伊作、これでどうだ…?」
「芋煮…そんなんでいいの?」
「いいんだべ、いいんだべ! 情報撹乱さぁ。密書だと思って開けたら、芋煮の作り方だ。 あちらさんは、何かの暗号だと考えて悩むだろうヨー」
与四郎はそう言うと楽しげに笑った。





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