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□傷痕
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「伊作、も少し歩いたら川に降りてちょっと休憩するべ」
馬を引いて先を歩く与四郎が振り返る。

そういえば、与四郎と初めて会ったのはいつのことだったか…。
伊作は与四郎の背中を目で追うと、ふと考えた。
彼との初対面は、確か二年くらい前だったと思う。
風魔流忍術学校の山野先生の傍らに控え、背も高くて、頼りがいのある印象があって、自分より年長だと思っていた。
のちに同い年だと知った時は、親近感が湧いて、嬉しかった。
親しくなってからは、彼が用事で学園に来た時に、会って、互いの近況などをよく話したものだ…。

「伊作、こっちだべー!」
不意に与四郎の声が聞こえて、伊作はハッと顔をあげる。
危うく彼を見失うところだった。
考え事を始めると、つい、周りが見えなくなってしまうのは、自分の悪い癖だ。

与四郎は既に川に降りて、馬に水を与えていた。
「おめも少し休んでおけよ。まだ長い道のりだからな。」

伊作も川岸まで降りて水を口にした。
木曽川の支流の水は清んでいて、夏なのにひんやりと冷たかった。

「さぁて、オラは一仕事すっかナ…」
与四郎はそう言うと、自身の左腕にぐるぐると皮革を巻きだした。

「与四郎、何をするの?」
「ん。ターちゃんを呼ぶんだーヨー」
ターちゃん…? 誰?
伊作はよっぽど聞こうと思ったが、それよりも早く、彼は指笛を鳴らした。
ピィィィーッ!
高らかな音が川辺に響く。
すると、川岸に聳える高い木々のもっと上の方から鳥の羽ばたく音が聞こえてきた。




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