ブック

□岩に降る雨
3ページ/9ページ


「ねぇ、留三郎、僕は長屋に戻るよ。」
伊作はぴょこんと岩から降りると言った。
「もう行くのか?」
「うん。陽に長く当たっていたから疲れちゃった。」
「…そうか。」
「あ、それから、洗濯ならやめておいた方がいいと思うよ。」
伊作は振り向いて洗濯籠を指差して言った。
「…どうして?」
「じきに雨が降る。」
「こんなに晴れてるのに?」
留三郎は形の良い眉を寄せて言った。
「うん。降る。」
伊作は、空を見上げて言った。
「…。お前、空、読めるのか?」
「なんとなく、ね。」
留三郎も空を見るが、雨が降るような気配はなかった。
当てずっぽうなのか、本当に予測がたつのかは判らないが、確かに伊作のよみは当たることが多かった。

(伊作、すごいよな…。)
長屋に向かって歩き出した伊作の背中を、留三郎は目を細めて見送った。
と、その瞬間、メキ…と、乾いた木材の割れる音がして、ガラガラという音とともに、伊作が校庭に吸い込まれた。

「! …。空はよめても、落とし穴には落ちるか! まったく。」
不注意なのか、不運なのか、ことごとく落し穴にかかる相棒に同情する。

「おい!伊作!大丈夫か〜…?」


…―――





次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ