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□岩に降る雨
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「なあ、伊作。」
「なに?」
「風魔流忍術学校に研修に行くって本当か?」
留三郎は視線を地面に落として言った。
「留三郎も一緒に聞いてたでしょ。この前ね、山野先生から文が届いて、夏に行くことになった」
「そうか・・・・・・。なあ!」
「なに?」
「もし、行くな、って言ったら?」
「え…っ?」
伊作は少し驚いて、留三郎を見た。
留三郎は、少し罰が悪そうに岩の上で膝を抱えた。
「留三郎。どうして?」
「それは…だなあ…。」
歯切れ悪く言った後、留三郎は狼狽した表情で伊作を見た。
「だから。ほら、変な相模弁が伊作にうつったら嫌だろ!」
「…! 何それ、変なのっ」
伊作はぷっ、と小さく笑って言った。
「ああ、ほんとにな! 俺、変なこと言ってるよ」
自分でも解ってる…と、小さく呟くと留三郎は頭を掻いた。

「留、素直に寂しい、って言えばいいのに」
「別にそういうわけじゃ…」
「短期の研修だし、ちゃんと戻るから。心配ないよ」
「・・・・・・。」

戻る。か。
留三郎は、伊作の風魔行きが決まってから、妙な胸騒ぎを覚えていた。
伊作を行かせたら、もう戻らないんじゃないか、と。
子供じゃあるまいし、何がどう心配なのかは自分でもよくわからなかったけれど。

「そうだよな。研修だもんな。相模弁がうつる前に帰ってこいよ!」
留三郎は、笑顔をつくって言った。
「うん…!」
伊作もそう言って笑った。





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