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□岩に降る雨
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曇天が続いていたのに、随分と陽射しのある日だった。
食満留三郎は、溜まった洗濯を片付けてしまおうと洗濯籠を抱えて校庭に出た。
留三郎が顔を上げると、長屋から校庭を挟んでちょうど対角線上にある大きな岩の上に伊作がちょこんと座っているのが見えた。
こちらから見るとなんだか置物のようだ。
(あんな所で何をしてるんだろう…)
留三郎は伊作のところまで歩みをすすめた。

「おい、何してる?」
伊作は留三郎に気付いて顔をあげると、眩しそうに目を細めて言った。
「日向ぼっこだよ。」
「俺には本を読んでいるように見えるんだけど…?」
そう言うと、留三郎は岩の前に洗濯籠を置いた。
「読書はね、日向ぼっこの口実なんだ。」
伊作は微笑んで、読んでいた本をぱたんと閉じた。
「隣、いいか?」
留三郎も伊作の横に座った。
その岩は、思いのほか温かい。






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