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□花見の約束
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「吉野か。千本桜で有名な。でも遠いでしょう?」
「そう。それで、遠乗りするんだ。文次郎は馬が得意だから。」
そう言うと、仙蔵は頭の上の手拭いをぎゅっと絞って顔に当てた。

「伊作は?」

「うん、留三郎と釣りに。僕は、花見が目的なんだけどね。
桜の木が湖のほとりにぐるっと植わっている場所があるんだって。」
「ほぉ。」
「留三郎が、釣竿と魚籠を二揃いこしらえてくれてさ、一緒に釣ろうって」
伊作は楽しそうに話す。

「留三郎は、相変わらず器用になんでも作るな。
お前が、愛用してる瓢箪の水筒も留三郎が作ったんだろ?」

「そう。仙蔵、よく気が付くなぁ」
伊作が言うと、仙蔵は、くくく…と、面白そうに笑っていた。

「なんだよ」
「いや、お前たちは何でも揃いの物を持って、仲がいいな、と。」
「そうかな」
「そうさ。さて、伊作、私はそろそろ上がるかな。これ以上いたら、湯だってしまう」

仙蔵の顔をみると少し火照っていた。
そして彼は、じゃあ、と言うと風呂場を出ていってしまった。





(仙蔵には、僕と留三郎が仲良く見えるのか)

水面からもくもくと、天井目指して立ち上る蒸気を見上げて思う。

それにしても。

『遠乗りするんだ。文次郎は、馬が得意だから』って。

仙蔵は、文次郎と一緒に馬に乗るってことだろうか。
それじゃあ、まるで姫のようだ。

文次郎の背中を後ろから抱き締めて騎乗する仙蔵を想像して、少し笑う。

仙蔵だって、文次郎と仲いいじゃない。ねぇ。
まったく、人のことばっかり冷やかして…。

さっき言えば良かった、と伊作は少し後悔した。







春爛漫まであと少し。
忍術学園最後の春をそれぞれに謳歌する六年生達であった。





*** おわり ***




(→あとがき)

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