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□花見の約束
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「仙蔵、おつかれ〜」
「あぁ、伊作もお疲れ。」
がらり、と、木戸を開けて伊作が浴場に入ると、仙蔵がひとり湯槽に浸かっていた。
伊作も体を流して、仙蔵の横にザブンと浸かった。

「はぁ〜、あったかいなあ。」
伊作は思わずそう言った。
「夜間演習で体が冷えたからな。」
先客も頭に手拭いを乗せて、気持ち良さそうに目を細めている。
六年生は夜間演習を終えると、朝風呂をとるのだ。

「ねぇ仙蔵、今日のお湯さ、いつもより量が少なくない?」
伊作は水面に手のひらを着けて言った。
「ああ。私は、やめろと言ったんだが。
小平太が風呂ではしゃいでな。飛び込んだり、泳いだりして。」
「そうだったんだ。どおりで。演習あけなのに、元気だよね。」
伊作は小平太の底無しの体力に関心してしまう。

「全くだ。お前が来る少し前に上がったんだが、会わなかったか?」
「うん」
「…ったく。あいつは、頭もろくに乾かさないから、髪がワラみたいにバサバサなんだ。」
「あははは、仙蔵、それは言い過ぎだよ〜」

小平太の髪を藁みたいだと言った仙蔵に伊作も同感で、可笑しかった。

二人の笑い声が暫く風呂場にこだましていた。

「ねぇ。もう少しで桜が満開になるよ。仙蔵は、どこかお花見に行く予定ある?」
伊作が聞いた。ふと、演習中に見た桜の木を思い出したのだ。

「ああ。文次郎と話していてな、週末に二人で吉野に行く予定なんだ。」






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