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□イン&ヤン
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桜の蕾もやっと膨み始めたというのに、とても寒い春の朝のことだった。
三寒四温という言葉を聞いたことがあるが、それでいったら、今日は「寒」にあたるだろう。

ついたての奥には、同室の中在家長次が臥せっている。
今日で三日目だ。
高熱が引かないのだ。

「長次、起きてるか?具合はどうだ?」
七松小平太は、ついたての上からひょいと顔を出すと長次の様子を伺った。

「う、ん・・・・・・」

長次は、明らかに精気のない返事をする。
長次はとこからは起き上がろうとせず、ゆっくりと顔だけこちらに向けた。
小平太はついたてを脇にどかすと長次の枕元に座った。

「長次、元気だせ!なんか、食いもん持ってきてやろうか?」
と小平太は言う。
長次はだるそうに瞬きをすると、
「朝から元気な奴だな。少し分けて欲しいくらいだ」
とだけ言って、また目を閉じてしまった。


長次とは一年生の時からずっと同室だ。
忍術学園の寮生活において同室というのはかなり大きい存在である。
「ルームメイトとは一蓮托生」と言うと大袈裟だが、実習で組になるというだけでなく、
片方が病気や怪我といったトラブルに見舞われた時には同室者が協力して解決する、
という制度をとっている。

「・・・・・・。長次」
三日も高熱が続いているパートナーに、小平太もさすがに心配になる。
「まだ、かなり熱いな」
小平太は、長次の額に手を当てて自分の額の温度と比べた。

小平太は眠る長次を見て、静かについたてを元の位置に戻した。
そして、新しい緑色の制服に着替えると、髪をあげて部屋を出た。






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