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□悪戯
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くじ引きで決めた二人組で任務に向かう道すがら、小平太が変なことを言い出した。
「仙蔵ってさ、文次郎のこと好きなの?」
そう言って振り返った小平太はにやりと笑った。
「何、馬鹿なことを!好きなわけあるか!気持ちの悪い!」
咄嗟にそんな言葉が口をついた。
「へ〜え。仙蔵は文次郎のこと好きじゃないんだな。じゃあさ。わたしが狙ってもいいのか?」
「え……っ」
驚いて聞き返す。
「文次郎ってすごいと思わねぇ?この前なんて、米俵を山盛り積んだ荷車に私と長次を乗せて峠越えをしたんだ。
途中で出てきた山賊だって、一人で全部倒しちゃうしさ。だから、惚れた!強さに惚れた。だから狙ってもいい?」
「そ!それは駄目だ!」
「なんで?だって好きじゃないんだろ?」
小平太がじっと見つめてくる。
「好きじゃないけど、駄目だ!」
「好きじゃないけど駄目なんだ?」
「……そうだ。」
「ふーん。やっぱり仙蔵は文次郎のこと好きなんじゃないか」
「別に好きなんかじゃ!」
わたしはそう言って、下を向いた。
紅潮しているだろう顔を小平太に見られたくない一心だった。
「くくくっ。あっはっはっは!やっぱり仙ちゃん可愛いや!文次郎が羨ましいぜ!」
「どういう了見だ」
「ちょっとからかってみたかっただけ!」
そう言って小平太は足早に逃げた。
なんという悪戯小僧だ。
「待て小平太!許さん!!」