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□菜の花と君
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「いやぁ、潮江先輩、中在家先輩、七松先輩!お陰さまで沢山採れました!」

きり丸が、摘み取った籠いっぱいの花を見て満足そうに言った。

今日はきり丸が合戦場の野原で花摘みのアルバイトをするというので、偵察と、彼の引率を兼ねてやってきたのだ。

「僕はこれから花を売りに街に行きますからっ、今日はここで解散ということで」
花を一つの籠にまとめ、それを背負ったきり丸が上機嫌に続けた。

「あ、待ってくれ、きり丸。花を一輪、持って帰ってもいいか?」
声をかけると、きり丸は笑顔で振り向いた。

「もちろんですとも、潮江先輩。一輪と言わず、二輪でも三輪でも」

「いや、一輪でいいんだ」
そう言ってきり丸の背中の籠から大輪の白い花をつけたひとふりを抜きとった。

「なんだ、文次郎、百合の花なんて食えんぞ?」
「人に渡すなら、花粉を落としてからのほうがいい……もそ」

きり丸を見送った後、冷やかす友人をしり目に、白い百合の花を長屋に持ち帰った。










夜のとばりが降りる頃、仙蔵が部屋に帰ってきた。

「ああ!もう!骨折り損のくたびれ儲けだっ!」

仙蔵は、力任せに部屋の戸を開けると、悔し紛れに頭巾をバシンと床に叩き付けた。

「おい、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないっ!」

仙蔵の苛々の原因は委員会にあるだろうと、直感的に思った。
委員長になると、教職員との調整やら、下級生が起こした揉め事の火消しやら、他の委員会との競り合いに腐心することは多い。

「話、聞こうか……?」
「余計な世話だ!お前なんかに解決できる話じゃない」

複雑な問題があるらしい。

「え?あれ、花が」
文机の上に置かれた花に仙蔵が気が付いた。
「土産だよ」
「え?誰が……?伊作か?」
「いや、俺だよ」

「それは嘘だろう」

「嘘じゃない。疑うなら小平太か長次に聞いてみろよ」

本当に信じられなかったらしく、仙蔵は直ぐに隣の部屋に向かった。

「意外だ。お前が花なんか」
戻ってきた仙蔵は頬を紅潮させて言った。

「花なんか……」
仙蔵は百合の花をじっと見て小さく呟いた。

そして、花を一輪挿しの花器に飾ると、
「ありがとな、なんかちょっと頭が冷えたよ」
そう言った。

「委員長は大変だよな」
「あぁ」
「ま、六年生の余裕ってやつを見せてやりゃあいいんだ」
「……偉そうに」
仙蔵がそう言って、二人で笑った。



花が似合う君。
鮮やかな色彩の中のおまえを、俺はずっと忘れない。





*** おわり ***




ちょっとクサイ話になってしまった///
文次郎ごめんっ;


ゆう
2014.4.11




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