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□都会の光の中で
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「た!楽しかったー!」
「僕もあんな大声出しだの久しぶりだよ。……あっ」

ジェットコースターを降りた僕たちは手を繋いでいた。

「八左ヱ門、手……。」
「あ、ごめん」

僕たちは繋いだ手を咄嗟にほどいた。
八左ヱ門の手がとても温かくて、僕は、実は少しだけ名残惜しいと思った。

「兵助ってさ、手、冷たいんだな。暫くあっためてやるよ」
彼は、そう言って僕の手を再び取った。
「うん」
僕の心を少しだけ読んだような彼の言葉に、上がった自分の体温を感じながら、僕も彼の手を握り返した。

それから、室内のアトラクションに三つ乗り、チケットは残り一枚になった。

「最後何乗る?」
僕は確認の意味も込めて聞いた。

「これにしようよ」
八左ヱ門は観覧車を見上げた。
もう、たぶん決めていたんだ。

「うん」
屋外デッキで、上空を見上げた八左ヱ門の髪を風がフワリとかき上げた。

観覧車の列も何組かのカップルが並んでいただけで、直ぐに順番が回ってきた。

僕達は向き合って座った。
ジェットコースターに乗った時とは全く違う胸の鼓動に驚いてしまう。

「……外、綺麗だな」
「うん。あ、スカイツリー見えるね」

どうでもいい会話をして心臓の音を辛うじて誤魔化しているのは、きっと僕だけじゃなく。
八左ヱ門の顔を盗み見れば、気まずそうに外ばかり見ている。

だから。
今日は僕からいってみても良いんじゃないかと思う。

「はち。好きだ。」

僕はそう言って向かいに座る男にキスをした。
時が止まるようだった。
気がつけば観覧車は一番高いところにきていた。
このまま、空の上で、二人だけで、本当に時間が止まってしまえばいいのに。と、そう思う。

「兵助。……俺って、大事なこと兵助に言わせて。ほんと不甲斐ないやつで。でも兵助のことが大好きなんだ。」
八左ヱ門は僕の手を取ると自分のほうに引き寄せた。
そして、キスしてもいい?と真顔で聞くから、そんな生真面目なところに、心臓がキュッと収縮する。
そして僕が頷くと、今度は彼がキスをした。

優しいキスだった。
彼はいつだって優しさをわけてくれる。

すると、突然、沈黙を破るように、ぐぅ、と八左ヱ門の腹がなった。
僕は身体を離して、思わず「あはは」と笑った。

昼飯がコンビニのおにぎりで、その後 間食もしなかったのだ、と、必死に弁解し始めた彼がまた、彼らしかった。

「観覧車下りたら、ご飯食べに行こうね」
僕はそう言って続けた。

「ラクーアの一階にね、おいしい豆腐料理の専門店があるんだ。
冷や奴にはじまって、湯どうふに、豆腐の味噌汁、肉どうふ、餡掛けどうふ、八杯豆腐、豆腐飯……」
「兵助の豆腐好きってまだ治ってなかったんだな!」
「嫌だな、病気みたいに言わないでよ」
そんなふうに言いながら、僕たちは観覧車を下りた。

僕達はイルミネーションのトンネルを歩いた。
そして、僕は少しだけ前を行く八左ヱ門の手を後ろからそっと握った。






*** おわり ***





先日 女子の友達とラクーアで遊びましたv
ラクーアデートお勧めです(笑)

2014.2.20
ゆう





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