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□都会の光の中で
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歩きながら八左ヱ門は、彼の研究のことを色々話してくれた。

「八左ヱ門、大学楽しそうだね」

彼があまりに楽しそうに語るからそんな言葉が口をついた。

「兵助は楽しくないの?」
「いや?楽しいよ」

咄嗟に言ったそれは、少しだけ嘘だった。
八左ヱ門みたいに自分の研究分野を熱っぽく語る自信は僕には無かった。
話していると、ラクーアはすぐに見えてきた。

「なんだ?あれ」
ラクーアの方を指差して八左ヱ門が言った。

「あれがラクーアだよ」
緩やかな下り坂の先に、曲線をはらんだ七、八階建てくらいの建物が見えている。

「その上!上だよ!レールみたいなのが見えんだけどさ!」
「あれはジェットコースターだよ」
僕が言うやいなや、ゴオという音と共に、ジェットコースターが建物を飛び越えていった。

「わあ、嘘だろ!」
八左ヱ門は驚きながら、目を輝かせた。
「確かに。初めて見ると驚くかもね」
僕はそう返した。

ラクーアには、スパとエステ施設、飲食店や雑貨屋を中心に、ライブステージから、
メリーゴーランド、お化け屋敷までエンターテイメント要素が揃っている。

「あれにさ、乗ってみようよ、兵助!」
八左ヱ門は僕に驚きの提案をした。

「え。うーん、いいよ!」
僕ものった。

断る理由は無かったし、ワクワクしている八左ヱ門をまだ見たかった。

ラクーアにつくと、早速チケットセンターに行った。
その頃になると秋の日は暮れ、替わりにイルミネーションが僕たちを照らした。

ジェットコースターの他にも色々なアトラクションがあることを知って、すっかりやる気になった僕たち……、
主に八左ヱ門だけど、は、ライドファイブという、五つの乗り物を選んで乗れるチケットを買った。

「サンダードルフィン!最大速度130キロ!」
ジェットコースターの列に並んだ八左ヱ門は嬉しそうに言った。

「兵助、絶叫系大丈夫なのか?」
平然としているように見えたのだろう、八左ヱ門が聞いた。

「130キロは流石に未体験ゾーンだよ」
そう返すと、八左ヱ門は笑った。

冬も近づいたこの時期に乗る人も少ないのだろう。
すぐにコースターの座席に通された。
しかも一番前の席に二人で並んで座った。

「うわあ、やべぇドキドキしてきた」
八左ヱ門が胴を押さえるバーをぎゅっと掴んだ。

コースターは間もなく動き出し、コッコッコッコッ…、と静かな音をたててレールの坂道を登っていった。
僕の隣には、固くなった八左ヱ門が。
そして坂の頂上に到達すれば僕も身をぎゅっと固めた。

「ぎゃあああああ」
「ぎゃあああああ」

位置エネルギーを解放したジェットコースターは、そのままビルを飛び越え、
イルミネーションの灯りの中で宙返りをして、猛スピードで東京の夜空を駆けた。






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