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□ANSWER
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「なんだ。パートナーが俺なのがそんなに不満か?」

声をかけてきたのは、クラスメイトの鉢屋三郎だった。
彼の学ランの上着の裾は短く切られ、頭髪の色はほかの生徒と比べると赤かった。

「ああ!不満だね!」
八左ヱ門は顔を上げるとぶっきらぼうに返した。

「考え甘いぜ、八左ヱ門。成績が良くても“中の上”くらいのお前じゃ、高望みしたところでまず希望なんて通らないだろ」

三郎はそう言った。

利根マラのペアの決め方にはルールがあった。
事前に各人一人の相手に希望を出し、その希望が「相思相愛」、つまり互いに一致した場合は無条件でペアを組むことができる。
一方で希望が「片思い」の場合は、成績順位の高い者から優先的にその希望が叶えられる。
三郎が八左ヱ門に指摘した点がこれだ。
この学校では、何か決めごとをする時に主要五教科の成績順位が鍵を握る。
成績至上主義なのだ。
そして最後に、自分の希望が叶わず、かつ、誰からも指名されなかった者は、それら同士がくじ引きでペアにされてしまう。

「この俺がお前を指名してやっただけ有難く思えよ。そうでなければ、お前、完全にあぶれてただろ」
三郎は八左ヱ門を見下しながら言った。

一見すると不良のようにも見える三郎だったが、それでも成績はトップクラスだった。

「なんだよ、その言い方。だいたいなんで三郎が俺を指名したんだよ?」
八左ヱ門は太く凛々しい眉毛を少しだけ吊り上げて三郎を睨んだ。

「知りたいか?お前が、案外、勝負強いからだよ」
三郎はきっぱりと言った。

「俺が勝負強い?勝ちに行きたいなら“中の上”!くらいの俺じゃなくて、もっとデキのいい奴と組めば良かったんじゃないか!?」

八左ヱ門は三郎に噛みついた。
二人は、よく言い合いになった。
毎年クラス替えがあるにも関わらず、一年の時から今までずっと同じクラスだったからだ。
要は腐れ縁の仲なのだ。

「俺より上位の奴に希望を出して、相手が違う奴を指名したら、俺が下位の奴に指名されるか、あぶれてくじ引きになるだろ。それはそれで非常に困る」
「なんでだ?」
「分かりきったこと聞くなよ。俺が上位入賞を狙ってっからに決まってんだろ?」
三郎は力強く言った。

「八左ヱ門こそ、誰と組もうとしてたんだよ」
「い組の久々知兵助だよ!」

そんな事はもうどうでもいいだろ!と、少し投げ遣りに言った八左ヱ門は再び机に伏せた。
その様子を見ていた三郎は、長いため息をついて八左ヱ門の前の椅子に跨がった。









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