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□最後の言い訳
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文次郎は、フリーの忍者になる。

学園を出たら、その瞬間から敵同士になる可能性だってあるのだ。
この先 友達気分は許されない。


仙蔵はゆっくり立ち上がると部屋に入った。

「あぁ。 だいぶ片付いたようだな」
「だろう? あとは、忍具をまとめて……」

「おい。 まさか、十キロ算盤を持って行こうとしてないよな」

風呂敷の上の算盤に気が付いて仙蔵が聞いた。

「持っていきたい!がっ!重い!が、持って行きたいっ!」

文次郎はそう力強く言うと、子どものような表情を覗かせた。

「まぁ、気持ちは分かるが……。 三木ヱ門にでも譲ったらどうだ?」

文次郎は一瞬迷ったようだが、
「それも、そうだな」と言って、算盤を抱えて部屋を出て行った。


「最後までせわしないやつだ」


仙蔵は文次郎の背中に言うと、がらんとした部屋の真ん中に座った。
そして、天井を仰ぐと大きく息を吐いた。

空気は静かで冷たい。


暫くすると文次郎が戻ってきた。

「三木ヱ門にちゃんと挨拶してきたか?」
「あぁ。 ……あいつの泣き顔初めて見たよ」

そう言って視線を泳がせた文次郎に「そうか」とだけ返した。



「もう行くのか?」

風呂敷を纏めた彼に問うと、ゆっくりと視線を合わせた文次郎が、「いや」と言って続けた。


「お前との別れがまだ済んでねぇ。」

そう言った文次郎は仙蔵の正面に正座した。

「おい、堅苦しいな」
仙蔵は咄嗟にその場を離れようとしたが、文次郎がその腕を掴んだ。

「聞いてくれ仙蔵。」
「お前には本当に世話になった。 俺が風邪引いちまった時も、怪我した時も……」

「それは、お互い様だろう」
諦めて文次郎の方に向き直ると言った。

「いや。 違うんだ。 ほんとは、そんなこと言いたい訳じゃねぇんだ。 なあ。 仙蔵、俺は卒業してもずっと側に居たかった!俺はな!お前のこと……!」

「文次郎!その先は言うな!」

仙蔵は慌てて文次郎の言葉を遮った。








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