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□蝉時雨の夜
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「おーい、長次助けてくれー!」

吊られたまま長次に声をかけると、彼は下から自分を見上げて呆れた声で言い放った。

「またか。」
と。

「すまん。 罠があること、全っ然気付かなかった!」
「何故気付けない?」

小平太は笑って言ったが、長次は冷ややかだった。
今思えば、度々罠にかかる自分に苛ついていたのだろう。

「何故って? わたしはあんまり考えないからな!」

そう答えると、長次は近くの木に登りクナイで輪縄を切った。
足にはまだ縄が巻きついていたので、小平太はそのまま真っ逆さまに地面に落ちた。

「あたたた」

小平太が頭を押さえていると、木から降りた長次が言った。

「この輪縄は猪を狩るためのものだ」
「だから?」
「わからないか? お前の頭は飾り物か、と言ってるんだ」
「なんだよ長次! 喧嘩売ってんのか?」



あの頃の私たちは、よくぶつかり合っていた……。



「小平太、もっとよく考えろ。 獣道を通るなら、罠があることくらい前提に行くんだ」

「うるさいなぁ。 長次はわたしに文句が多い」
そう返すと長次は睨んだ。

「文句じゃない。 こんなことでは、小平太、おまえ、簡単に命を落とすぞ?」

「ふん……」

直感で行動する自分と、その逆の長次が組んでいたのだから、相容れないのは当然だった。

確かに長次は分析することが得意だった。
罠や敵の作戦を看破することも多かったが、考えた上で起こした行動は、時として後手に回るという欠点があった。
だから、自分のように直感的に動くことが決して間違いだとは思っていなかった。



―――そして別の任務の時だった。
自分は、長次の制止に真っ向から反対していた。








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