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□愚者の弔い
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「駄目だ長次。 仙蔵も……事切れてる」

開け放した扉から診療所の中に朝日が入る。
小平太が倒れた仙蔵の頸もとに四指を当てて言った。

「伊作も自刃か。愚かな……。」
長次は伊作の手から刃物を取り上げると、その先端に塗られた毒を確認した。

「私達がもっと早く着いてればみんな死なずに済んだかな」
「それは……、わからん」


長次は血にまみれた文次郎の遺骸に歩み寄ると、その脇に片膝を立てて座し、話し始めた。

「文次郎、調査依頼の報告を行う。……預かった薬は、総合漢方薬のようなものに、身体依存性の高い新型阿片と、催淫剤が混ぜられていた。
長く服用すれば、やがて阿片による精神異常に陥る代物だった。」

「仙蔵のやつ、こんなに痩せちまって。……文次郎は、薬がおかしいことに薄々気がついていたんだな」
小平太が目の前の骸の乱れた衣服を整えてやると言った。

「あぁ。そういうことだ」
長次が答えた。

「伊作、私からも報告があるんだ。随分待たせちまったが……」

小平太が立ち上がって壁際に横たわる亡骸に近づくと続けた。

「やっと、留三郎を殺した奴等の居所を突き止めた。
私がもっと早く探し当てていれば、おまえも文次郎達を恨まずに済んだのに。」

小平太はそう言うと、冷たくなった伊作の頬を優しく手で包んだ。

「伊作は昔から強情なところがあった……。 二人に落ち度はなかったと、何度も説得したというのに。
伊作は、留三郎と共に忍務に出た文次郎と仙蔵に気持ちの鉾先を向けずにはいられなかったのだろう……」

長次も小平太の脇に来て跪いた。

「留三郎が命を落としたこと……、二人の所為じゃないって、伊作も本当は解ってたんだ。 だから、これを私に託したんだろう?」

小平太は伊作に向かってそう言うと、部屋の隅の薬棚の前に立った。
そして、棚から木箱を引き出した。

「伊作、この薬は私が預かるぞ!」

小平太は箱の中身を確認すると、手近にあった麻袋にガサガサと中を開けた。

「文次郎、仙蔵、おまえたちがこの時の為に残しておいた資金と武器も使わせてもらう。 そして、わたし達が、留三郎の仇を伐つ」
長次が言うと、二人は互いに見合わせて、うん、と頷いた。


「小平太、仙蔵の庵に武器を取りに行こう」

「待ってくれ。私は伊作を留三郎のところに連れて行く。弔ってやりたい」

「分かった。では、庵で落ち合おう」





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