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□相互補完
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「随分遅かったな、長次」

長次が六年ろ組の部屋の戸に手をかけると中から声がした。

「小平太…。起きていたか」

「いや…。ちょい前まで寝てた。気配で気付いた」

長次が襖を開けると布団の上には寝間着姿で胡座をかく小平太が居た。
長屋の外は月もなく、只々深い闇が広がっている。

「仙蔵と文次郎は? 忍務、一緒だっただろう?」
小平太が聞いた。

「彼奴らなら心配ない。朝には帰る」

長次は静かに部屋の中に入ると、肩に掛けた荷を下ろして言った。

「へーえ、じゃあ、今頃イチャコラしてるってことだな!」

「小平太、そう言う言い方はよせ」

長次は小声でたしなめる。

「じゃあ、傷の舐め合い? 長次だけ先に帰らせておいて酷いな」

「……。」

「で、さ、長次は今晩いったい何人殺したの?」

暗がりの中から、小平太のその大きな瞳が長次を射抜く。

「わたしには分かるぞ。だってさ、殺気がぷんぷんする」

「……だったら、何だと云うんだ?」

長次は上から小平太を見下ろした。

「まるで鬼みたいな顔してるよ、長次」

「……」

長次はふぅと息を吐くと小平太の発言を否定するように小さく首を横に振った。

「長次、こっち来いよ。今晩は私が下になるから」

「……。血生臭いこの手で、そんなことはできない」

長次は少し沈黙した後、広げた掌に視線を落として言った。

「長次は馬鹿だな。 女にしてくれてやるよーな気遣いなんか欲しくねーんだけど」

「……」

「こういうのはお互いさまだ。観念しろ長次!」

小平太は勢いよく立ち上がって長次に歩み寄ると、顔を両手でぎゅっと押さえて強引に唇を吸った。

「……!っ……ん!」

長次は思わず目を見張る。
小平太は立ったまま、長次の上着を脱がした。
そして長次の肌に触れた。
長次は少しだけ抵抗したが、次第に小平太の愛撫を受け入れた。








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