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□その想いは時を超えて
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行為を終えた二人は裸のままベッドに横たわっていた。
「いつもより激しかったな」
仙蔵がぽつりと言った。
「おまえが色っぽいからだ。浴衣なんか着て」
文次郎は静かにそう言うと仙蔵を背中から抱き締めた。
「なあ仙蔵」
「ん?」
「俺、お前に言わなきゃいけねぇことがある」
仙蔵は、改まる文次郎に少しだけ嫌な予感を感じながら小さく頷いた。
「辞令が出てな。ニューヨークに赴任する事になった」
やはりな、と仙蔵は内心呟く。
嫌な予感は大抵当たるのだ。
「それで…」
「それで、別れよう。って?」
仙蔵が言った。
「違う。…。ついて来てくれねぇか? ニューヨークに。 …それで。」
「結婚しよう」
「…。…は?」
仙蔵は素っ頓狂な声を出して上半身を起こした。
「貴様にはほとほと呆れるな。男同士で結婚なんて…」
「できるんだ。ニューヨークなら。州法で同性婚が認められてる」
「…。」
仙蔵は閉口して文次郎を見つめた。
「仙蔵。俺は本気だ。大学ん時、お前と離れて、それがどれだけしんどいことか、よく分かったんだ。今度は離したくない。」
「…。そうだとしても、あまりに勝手じゃないか? わたしにだって仕事がある!ニューヨークに着いてこい、なんて簡単に言うな!」
「分かってる。簡単には言わない。これで最後にするから…。」
そう言うと文次郎は仙蔵をぎゅっと抱き締めた。
「必ずお前を幸せにする。だから全部捨てて俺について来い」
「…。…考えさせてくれ」
仙蔵は俯いて小さく返すとフロアに落ちた浴衣を羽織って部屋をあとにした。
―――――――
翌日、昼前には荷物を纏めて宿をチェックアウトした。
文次郎は昨晩以来、あのことは口に出さない。
『結婚しよう』
だなんて…
「なぁ仙蔵、女将が蕎麦屋を紹介してくれたから行ってみよう」
「…あぁ」
「今時、蕎麦の実を石臼で轢いて蕎麦を打ってるらしいぞ」
「…へぇ」
なんだか気もそぞろだ。
「水車小屋が目印らしいから、ほら、仙蔵も探してくれ」
そうして二人は川沿いの道を歩いていた。