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□八左ヱ門の片思い
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半鐘が鳴り、歴史の授業が終わった。
昼休みに入って、八左ヱ門が動物達の様子を見に行こうと校庭を歩いていると、用具倉庫の向こうから、何か言い争っているような声が聞こえてきた。
「毎日毎日は相談しないよおっ!!」
大声を出しているのは、兵助だった。
八左ヱ門は、咄嗟に倉庫の陰に身を潜めて様子を伺う。
「相談、してるだろ? ろ組の不破雷蔵と鉢屋三郎が言ってたぞぅ?」
兵助の相手は、勘右衛門だ。
「ろ組の二人が…? 相談されて迷惑なら、そう言ってくれればいいのにっ!」
(…兵助の相談って何だろう。 俺が相談に乗ってやれないだろうか…?)
八左ヱ門はそう思いながら気配を消してもう少し二人の様子をみることにした。
「…もぉ、ろ組の奴らに相談した俺が馬鹿だったよ…! やっぱり、尾浜勘右衛門に相談するべきだった!!」
「俺を巻き込まないでっ! じゃね!お元気でーっ!」
「あっ!勘右衛門っ!!待っ…!」
兵助が顔を上げるやいなや、勘右衛門は脱兎のごとく行ってしまった。
逃げた勘右衛門の背中に罵声する兵助を見て、八左ヱ門は拳に力を入れると自らに言い聞かせた。
兵助が何かに悩んでいることは確かだし、その彼は今一人だ。
ここで声をかけなかったら、きっと一生後悔する…。
兵助のところに行かないと…。
そう。
さり気なく。
いつも通りだ…。
お…。
「おほーっ!兵助!」
…―――――
こうして…。
初夏の爽やかな風が二人を包む。
草はらに寝っ転がって、
空に浮かぶ真っ白な雲さえも、おぼろ豆腐に見えたなら、
それはもう、兵助の術中なのだ…。
*** end ***
こうして。
第20シリーズ《32話》兵助の豆腐地獄の段に続く…!(笑)