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□八左ヱ門の片思い
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「八左ヱ門!次の歴史の宿題やったか?」
「ん?あぁ、一応」
教科書を片手に後ろからやってきた三郎に返す。
「当てられたら、こっそり教えてくれ、矢羽根で」
「おまえな、それ、今度から金取るぞ?」

顔の前でパチリと両手を合わせた三郎に八左ヱ門は釘をさした。

今から、五年い組、ろ組、は組合同で受ける歴史の授業だ。
合同と言っても、歴史と地理二教科から、どちらか受けたい方を選んで受ける、選択授業である。
八左ヱ門としては、歴史だろうが、地理だろうが、正直どちらを受けても良かったが、歴史を選択したのには、理由がある。

い組の久々知兵助が歴史を選択すると知ったからだ。

なんて不純な動機だろう、と、自分でも思う。
しかし、それ以上に兵助に少しでも近づきたい、という下心が勝った。

「歴史の授業、かったりぃなぁ。俺、今日、八左ヱ門の横座っから」
「別に、構わないけどさ…」

移動先の教室に着くと、三郎が溜め息まじりにそう言って、隣に着席した。
合同授業の時の座席は自由だが、俺の席だって、実はちゃんと決めているのだ。

それは、兵助の右斜め後ろ。

彼が教室の右寄りに座ることは、これまでの行動解析で読んでいる。
そして、自分が兵助のさらに右斜め後ろに座れば、黒板を見ながら、ごく自然な形で、彼を視界の中に納めることができるからだ。

「起立!礼っ!」
「お願いしまーす!」

こうして、今日も五年い組の学級委員、尾浜勘右衛門の号令で授業が始まる。
そして俺も、視界の中の兵助を確かめて、ちょっとだけ幸せな気分に浸る。





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