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□スカウト
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仙蔵は身支度を整えるとすぐに金楽寺に向かった。
てっきり就職の話か何かだと思ったら、学園長には簡単な遣いを頼まれてしまった。
金楽寺までの遣いなら、一年生だって行けるだろうに、なんだってわたしなんだろう。
風呂敷包みの中身がそこまで大切なものなんだろうか?
仙蔵は脇に抱えた包みに視線を落とす。
しかし、そんな心配をする間もなく金楽寺に着いてしまった。

「立花くん!」

参道の長い階段を登りきったところで、突然背後から声がした。

「!」
振り返ると、声の主は自分より何段か下の石段に立ち、涼やかな笑みを浮かべていた。

「利吉さん・・・・・・!?」

仙蔵は、考え事の最中だとはいえ、背後の気配に気付けず、利吉に隙を見せてしまったことに、わずかに顔を赤らめる。

「君に用事があるんだけど、いいかな?」

利吉さんには久方ぶりに会うが、いつ会ってもその佇まいは端麗で、相変わらず優秀な忍であるオーラを纏っている。

「あの、学園長先生に頼まれ事をしてまして。 これから和尚様のところに行くんです。その後でもよろしいでしょうか?」
仙蔵がそう告げると、利吉はくくっと喉の奥のほうを鳴らしてにやりと笑った。

「?」
「その遣いは僕が頼んだのさ。」
利吉は、仙蔵の風呂敷包みを指差すと言った。

「は…っ?」
仙蔵はどういうことかわからない、という表情で返した。
「学園長は、金楽寺に行けと言っただろう。和尚に渡せとは言わなかったはずだ。」
「確かにそうですが・・・・・・。 これが利吉さんの依頼? しかし何故です?」
「君と二人だけで話がしたかったんだ。大切な話だ。」
「じゃあ、この包みは?」
「君に来てもらうための口実だよ。深い意味はないんだ。中身はただの餅菓子さ。」

本当だから開けてごらん、と促されて仙蔵は風呂敷の結びめをほどいた。
「所作が綺麗になったな・・・・・・」
仙蔵の手元を見ていた利吉は独り言のように呟いた。






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