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□スカウト
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文次郎と一緒に仕事ができたら、どれだけ楽なことだろう。
だが、そう考えるのは単なる自分の甘えだとも思う。
それに、漠然とした不安もある。
学校を卒業したばかりの忍が、たった二人で、いったいどこまでできるのだろう…。

軍師になるという自分の夢を叶えるためには、やはり最初から組織に所属するほうが有利だと思う。
そう学園長に志望を出せば、おそらく適当な城を紹介される。
だが、文次郎のことはその場で諦めねばならない。
そして、文次郎にも正直に相談できず、今に至っている。
結局いつだって欲しいものを全部手に入れることはできないのだ…。


二人が黙って座っていると、向こうから一年の笹山兵太夫が駆けてきた。
仙蔵は兵太夫と目が合う。
「立花先輩、お話し中すみません、学園長先生がお呼びです。」
「…あぁ。分かった。庵に行けばいいんだな。」
「はい、そうです! それでは失礼します。」
兵太夫は、要件だけ手短に伝えると、もと来た方に走って行った。

「就職の話かな」
長次が仙蔵をちらりと見ると言った。
「うん、そうかもなぁ。行ってくるよ」
仙蔵はそう言って、縁側から庭に下りた。



* * *



「学園長先生、立花仙蔵です、入ります」
仙蔵が片膝をついて襖越しに言うと、「うむ、入れ」という返事が返ってきた。

「お話と言うのは…?」
仙蔵は学園長の向かいに正座すると聞いた。
「まあ、そう急くな。遣いを頼みたいんじゃ」
「遣い…?」
「うむ。金楽寺までこれを届けて欲しい。」
そう言った学園長は風呂敷包みを仙蔵の前に差し出した。
その中身はちょうど弁当箱か菓子折りか、くらいの大きさの四角いものだ。

「金楽寺まで、わたしが?」
「そうじゃ、早く行きなさい!」


…―――――






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