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□スカウト
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冷たい風が木の葉を散らす季節になると忍術学園では毎年その話題で持ちきりになる。

「今年は中在家先輩が一番に決まったらしいよ…」
「どこの城?」
「さあ、そこまでは分からないんだけど」

渡り廊下を曲がったその先で、低学年の二人がさっそく話題にしている。
話題というのは、六年生の卒業後の進路の話だ。

「…。」

立花仙蔵は歩みを止めて二人の会話を黙って聞いていたが、進行方向を変えると音もなくその場を後にした。

仙蔵が六年長屋に戻ると、ろ組の部屋の前に中在家長次がいるのを見つけた。
彼は縁側に腰掛け、庭の方に足を降ろし、背中を少し丸めた格好で、ぼうっと遠くの方を眺めていた。

「隣いいか?」
「…。」
仙蔵は声をかけて長次の横に同じように座った。
「就職先、決まったみたいだな。おめでとう」
「…。」
仙蔵が言うと、長次が黙ってこくりと頷き、こちらに顔を向けた。
「なんだ。 …長次はちっとも嬉しそうじゃないな」
仙蔵が眉をひそめて笑うと、長次が口を開いた。
「…。嬉しくないわけじゃない。就職先の城はいい城だし。ただ…」
長次は、そこまで言うとまた口をつぐんで遠くの方を見た。
「…ただ。ほんとに卒業して遠くに行くんだ。と。そう思うとな」
そう言った長次はやはり寂しそうだった。
卒業すればこの地を離れることも、親友との別れも、誰だって受け入れなくてはならないが、
彼はきっと憂いているのだろう、就職先が決まって、改めて感じているのだ、と、仙蔵は思った。
「卒業したって、生きていれば学園に戻ることも、仲間に会うこともできるだろう?だからそんな悲しい顔をするな」
仙蔵ができるだけ明るく言うと、長次も黙って頷いた。

二人とも暫く庭を眺めていたが、「仙蔵は?」と、今度は長次が聞いた。
「わたしは…。まだ進路希望も出してないんだ。学園長には催促されてるんだが」
「優秀なおまえなら引く手あまただろう」
「…それはどうかなぁ」
仙蔵は首を傾げる。
「戦忍志望なのか?」
「それも正直迷ってる。ゆくゆくは軍師になりたい」
「軍師。…そういえば兵法に関係する本をよく読んでたな。学園長にもそう話せばいいんじゃないか?」
「…あぁ。まあそうなんだけどな。」

長次には話さなかったが、学園長に素直に志望を話せない理由は他にもある。
文次郎に誘われているのだ。
卒業したら二人でフリーの忍として働かないか、と。





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