ブック

□恋と憧れ
1ページ/8ページ


「ねぇねぇ、綾部喜八郎くん!」
「…なんですか? タカ丸さん。」
廊下を歩く喜八郎を斎藤タカ丸が呼び止めた。
「中間成績の掲示が出たみたいなんだけど、どこにあるのかなぁ?」
今日は全学年の成績が一斉に発表される日なのだ。

「…。 見に行きますか?」
「うん、行く行く♪ 喜八郎くんはもう見たの?」
「いいえ〜」
喜八郎は、踏鋤をひょいと肩に担ぐとタカ丸の前を歩き出した。


* * *


喜八郎とタカ丸が、校庭に出ると、掲示板の前には、すでに忍たまの人垣が出来ていた。
二人もその最後尾に加わる。

「かぁぁぁ〜っ!
 容姿端麗にして、成績優秀な、この平滝夜叉丸が 穴掘り小僧に負けをとるとはぁぁぁ!」
掲示板の脇では四年い組の、滝夜叉丸が地団駄を踏んでいた。

「へぇ。 四年生では喜八郎くんが一番で、滝夜叉丸くんが二番かぁ。やっぱり、い組は優秀なんだねぇ。」
タカ丸はそう言いながら、熱心に成績の順位をメモしている。

「おい、喜八郎っ! 今回は戦輪の試験がなかったから、たまたま、私がおまえに負けたのだ。今度は負けんぞぉ!」
「…。 やっぱり、もう少し後でくれば良かったかなぁ…」
喜八郎は、闘志を燃やす滝夜叉丸を煙たそうに見ると、ふぅ、と、溜め息を漏らす。
そして、暫くは い組 で、こいつと一緒なんだなぁ、と思う。

「滝夜叉丸くんだって、学年で二番なんだから、充分すごいよぉ。」
タカ丸は余計なことに、フォローを入れる。
「充分すごい…?
 そうでしょう? そうでしょうとも! なぜなら、この、平滝夜叉丸、美麗な容姿に加えて、頭脳は明晰! 成績も常に上位をキープっっ…!!(以下、ぐだぐだぐだ…)」

「なあ、そんなことより、六年生の成績見てみろよ。 潮江先輩がトップだぜ!さすが会計委員会委員長!!」
いつから掲示板の前にいたのか、四年ろ組の田村三木ヱ門が、同じ委員会所属の先輩の成績が上位にあることを自慢する。
「もー、見てるよ。 六年生は、潮江センパイが一番。 二番が立花センパイ…。」
喜八郎は、小さく、ふーんと感嘆すると、掲示板に背を向けた。

「喜八郎くん、もう行くのかい?」
「…。」
タカ丸が声をかけるが、喜八郎は長屋の方に行ってしまった。


* * *






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ