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□別れの詩 <1>
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わたしたちの関係に、死ぬこと以外の別れがあるのだろうか。
そんなことを、長い間考えていた。

彼の腕の中で死ねるなら、それは、どんなに幸せだろう。
彼の骸を抱くのなら、それは、どんなに不幸だろう。

そう。
ならば、いっそのこと。

「もうやめよう」

不意に、口をついた。

視界に入った月が満月だったからだ。
わたしは、あれに少しだけ狂わされただけ。
わたしは、彼の顔も視ず、月ばかり見ていた。

「ああ。そうだな。」

少しして、彼が言った。
引き留められるかと思ってた。

そうしたら、
「お前の手で殺めてくれ」
と言えたのに。

彼は静かにその場を去っていった。

風が吹き、雲が月を覆った。
それでもわたしは、まだ空を見ていた。
下を向いたら、溢れた涙が零れてしまう。

そうだ。
これで良かったのだ。
わたしは、生きてるおまえが好きなんだから。

おまえは、わたしの知らない場所で、わたしより長く生きてくれ。











俺たち二人の関係に幸せな結末を求めてはいけない。

なんて。

そんな簡単なこと最初っから解ってた。

深い深い樹々の海に溺れて。
霧の奥深くまで迷い込んでしまわぬうちに。
頭では理解していたけれど、気がつけば、おまえの心と身体が俺の羅針盤を奪ってた。

このまま時が止まってしまえばいいのにと。
柔らかな木の葉の海で、君を抱く度、思ってた。

「もうやめよう」
おまえが言ったとき、心が砕けてしまいそうだった。

「ああ。そうだな」
そう、返したとき、涙が溢れてしまいそうだった。

こんなの ただの強がりだ。

おまえと離れる、それがこれほど苦しいなんて。

ずっとずっと二人で過ごした。
太陽のぬくもりも、氷の冷たさも分け合った。

好きなのに別れるのか?
好きだから、もうやめよう。

俺が引けなかった引き金を、代わりにおまえが引いたんだ。

これからは、俺ひとり。
おまえも、ひとりで歩くんだ。

だから永遠にさよならだ。










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