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□ANSWER
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1.

(どうして久々知兵助は俺の誘いを断ったんだ?)

竹谷八左ヱ門は納得のいかない顔で配布されたプリントをぎゅっと握りしめた。

「ペアの相手は各自プリントで確認してください。それでパートナーとは当日までに作戦練るように。
『利根マラ』について質問は?……無いよね。じゃ体育委員からは以上でーす」

連絡事項を済ませた体育委員が教壇の上から降り、替わりに立った担任が話を続けた。
こうして五年ろ組のホームルームは、うつろな気分の八左ヱ門をよそに滞りなく進行していく。

ここは県内でも進学校として名高い中高一貫の男子校だ。
中学から高校までの六年制のため、この学校の五年生は一般的な高校の二年生にあたる。
そして、学校の名物行事『利根マラ』が今から一週間後に控えていた。
利根マラとは、学校の側を流れる利根川支流をスタート地点とし、本流の川沿いの道を約百キロ走るマラソン大会だ。

利根マラは精神と肉体の鍛錬の一貫として60年ほど前から学校行事として始まったという。
そして毎年秋に、五年生が二人一組でこのマラソンを24時間かけて走る。
地域住民や学校のOBにとっては年に一度の楽しみかもしれないが、このイベント、生徒にとっては地獄以外の何物でもない。

コースが長く、夜通し走ることが過酷で有名だが、他にも特徴がある。
コースの途中に、関所と呼ばれるチェックポイントがあり、制限時間以内にそのポイントを通過できなければ、その時点で、脱落となる。
さらに、各関所では東大入学試験の内容に匹敵するほどの超難問が出題され、それに回答しなければいけない。

毎年、完走できる生徒は全体の約五割で、タイムと関所で解いた問題の得点を足しあわせた総合得点で順位が決まる。
まさに体力と知力を尽くした闘いであり、利根マラ上位入賞者には、この上ない名誉と賞賛の声が寄せられる。


「あぁ、なんでだー」


ホームルームが終わりクラスメイトが三々五々する中、八左ヱ門は頭を抱えて机に伏せた。






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