よみもの

□グロテスク症候群
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あるところに幽霊がいて、人には見えなくてみてほしくて、ぬいぐるみにとりついた。
人間は幽霊が話すと楽しそうに頷くけど、自分が寂しかった話をするとつまらなそうに帰ってしまいます。
幽霊は突き放されたくなくて、ひたすら、ひたすら楽しそうに振る舞います。
ひたすら、ひたすら、ひたすら。

そして、いつの間にか、幽霊は楽しそうにしか出来なくなりました。
偽物の笑顔で、幽霊は笑うのです。

げらげら、げらげら。

もうどこからが笑顔かなんて分かりませんでした。

ある日、ふと悲しくなって幽霊は笑わなくなりました。

寂しくなりました。
辛くなりました。
苦しくなりました。
悲しくなりました。
憎くなりました。

それでも、幽霊は笑うのです。

もう、笑顔ですらなくなりました。

口をちょっとあけて、はじっこを上げて、あとはあはははっと言うだけ。

次第に人間は離れていきました。

つまらない幽霊なんかもういりません。

幽霊は、死にたくなりました。

でも、幽霊は死ねません。

消えたくなりました。

消えることもできません。


幽霊は、ぬいぐるみから離れました。

今はもう、誰にも見えません。

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