恋愛狂騒

□30
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やけにひどい匂いがすると思ってそれを辿っていくと、開け放たれた扉の前に辿り着いた。

無言で中に入ると、見るも無残な死体の群れ。

しかし彼はそれを気にとめることもなく、そのまま部屋の中に視線を巡らせた。


「………」


そしてついにそれを見つけると、彼は一の字に結んでいた唇を微かに開かせた。

真っ赤だ。

寝台の上に仰向けになって胸に剣を穿たれている者と、その上に折り重なるように倒れている者。


ああ、こんな姿になってしまって。


彼は沈痛な面持ちでそっと二人のそばに寄った。

そして、うつ伏せに倒れている彼の、血で固まった茶髪をそっと撫でる。

その下の彼の血濡れの額にも手を当ててしばらくそうやっていると、彼は悲しげな表情を引っ込めて静かに息を吐いた。


そして立ち上がると、今度は大きな溜息を吐いて、やれやれと呟いた。


「こんな所で昼寝かい、太子、イナフ」


返事はない。

後頭部の尾から水を滴らせる竹中は苦笑した。





30・黎明





気が付くと、妹子は柔らかい布団に寝ていた。

目を開けると、横向きになって寝ている自分の目の前に自分の両手がある。


「………?」


妹子は呆然とその両手を見つめながら今の状況を考えたが、どうしても意味が分からなかった。

しかしそうしていると、自分のその両手が何かを握っていることに気が付いた。

何故かそれはほんのりと温かい。

また、自分のものではない息遣いが聞こえることにも気が付いた。

そしてそれは、まさかとは思うが、何だか自分が知っているもののように思えて。


「ッ!?」


勢いよく上半身を擡げると、そこには裸の上半身に痛々しいほど包帯を巻かれた太子の体が横たわっていた。



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