恋愛狂騒

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バンッ!!


その大きな物音に、大きく目を見開いた妹子は寝台から飛び起きた。

今までずっと夢をみていたが、目が覚めても妹子がいるのはやはりあの処刑部屋だった。

妹子が部屋の扉を見ると、そこには数人の役人達が立っていた。

妹子は蒼褪めて立ち上がる。


「だ、誰…!?」

「貴方は小野妹子殿で間違いないな?」


役人の一人が質問に質問で返し、妹子はそれを咎める余裕もなく頷いた。


「僕に…何か用ですか…?」


何となく予感していながらそう訊いた妹子は、役人達の手に光る何かを見た。


(………得物)


それで、殺す気だ。

聖徳太子を愛し、溺れてしまった自分を今ここで、あの女達と同じように…処刑する気なのだ。


「嫌です!死にたくなんかない…!!」


妹子は大きく頭を振って後ずさった。

寝台に脚が引っ掛かってシーツの上に尻もちを付き、妹子は寝台の上で壁ぎりぎりまで後ろに下がった。


「妹子殿、君はもう昔の君には戻れない」


ふと聞こえてきた声にハッとしてその主を探すと、やはり蘇我馬子が部屋に入ってきた。

そう言えば妹子はこの前、彼にとんでもなくひどい仕打ちをしたのだった。

妹子はそう思い当たると急に申し訳なくなって、混乱する頭で謝罪をしようとして、けれど声も出せずに口をはくはくと開閉させた。


「妹子殿も気付いているかもしれないな。太子には奇怪な力がある。人を虜にしてしまう、実に不快な力がな。今まで奴に溺れてしまった女性を何人も見た、そして全て殺してきたのだよ、妹子殿」

「う…うまこ、さま…ッ!僕は、ぼくは…ッ」


馬子は冷えた視線で妹子を貫いた。


「君もそうなってしまったんだ。しかし君は今までに見たどの化け物たちよりもよっぽどたちが悪い。ここまで狂ってしまった奴は君が初めてだ」


「だからね」と馬子は続ける。

妹子は拳を握りしめて聞いているしかなかった。


「君を………殺すしか、道はないようだ」

「殺…す」

「すまないね、妹子殿。あんな奴でも国にとっては大切な摂政なのだよ……悪く思わないでくれ」


じり、と距離を詰めてきた役人達に妹子の肩が跳ね上がる。

彼らの冷たい眼差しに、自分はこれから本当に殺されてしまうのだと悟る。


「ぃ…いやだ……」

「さあ、妹子殿、観念してくれ」


役人達の獲物が振り上げられる。

視界に入る冷たい眼差しと光る得物、そして衝立。


「………!!」










「妹子は殺させないって言ったでしょう、馬子さん」

「!?」






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