恋愛狂騒

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部屋に閉じこもって寝台に座っていた妹子は、やがて眠りに落ちてしまっていた。

若干埃っぽいそこに横たわって、寝ているんだか死んでいるんだか分からないほどの静かさで夢を見ていた。





暗い部屋の中。

衝立がそこにあった。

妹子がそれをじっと見据えていると、次第に悲鳴が聞こえてきた。

恐らく、女の声だ。


――太子は


「皇子!!わたくしだけを愛して下さいませ!わたくし以外のところへ貴方様をやるなんて、考えただけでわたくしは…!!」

「な、何言ってるんだよ!ちょっと落ち着けって…なんでそんな怖いこと言うんだよ!?」

「貴方様がそうさせたのよ…皇子に魅入られてしまった。その目を見ているだけで、声を聞いているだけで…わたくしはもう、貴方様なしでは生きられなくなるの…」

「い…いい加減にしろ!お前までそうなっちゃうのか!?」


どん、と突き飛ばす音の後、衝立の向こうから妹子の足元に女が崩れ落ちてきた。

追うように衝立の向こうから出てきた太子は、女を動揺の眼差しで見つめていた。


――太子には、人の心を奪う力がある。


「みんなそうだったんだ…お前もか?お前まで、私を裏切るの…!?」


女は床を這ってうめき声を上げるだけだった。


――意図せずとも人を己に溺れさせ、廃人同然になるほど心酔させてしまう。


「もう勘弁してくれ…っ、私はもう、誰が死ぬところも見たくないんだよ…!!」


太子は頭を抱えて涙を流した。


――人に愛される力、そう見えるそれは、


「こんなんじゃ、ないんだよ…私が欲しいのは、私が欲しい愛は、こんなんじゃなくって…っ」


太子の背後の部屋の扉が開き、馬子や他の役人達が入ってくる。

彼らは手に得物を持っていた。

太子は彼らが入ってきてもそれに構わず、床に膝を突いた。


「私にはもう…愛が分からない…」


――太子から言えば、誰からも誠に愛してもらえない力だった。


太子は本当の愛を知らないのだった。

誰も彼も、太子の力に惑わされた狂った化け物たち。

太子にぶつけられるそれは、どれも愛ではなくて、それ故に太子は本当の愛に触れたことがなかった。


そして女は殺されてしまった。

その一部始終を見ていた妹子は、目を大きく見開いたままでいた。


この衝立があるこの部屋。


「…今、僕は、」


どこにいる?


ざわりと心臓が冷えた。

自然と足が後ずさる。


「僕は…太子を、愛してる」


こんなにも、愛してしまった。

そして今、太子の伴侶になるはずだった女達が幾人も殺されたこの処刑場にいる。


それはつまり、どういうことだろう?


「……あはは、おかしい、な…僕、嫌な予感しか、しない」





27・院勘





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