恋愛狂騒
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馬子や竹中が忠告した通り、妹子は確実に壊れていった。
妹子は情緒不安定である。
太子は手を動かすたびにズレてきそうな包帯を気にしながら眉根を寄せた。
風呂から上がって寝室へ向かったところ、「布団を代えておきます」なんて言っていた妹子が血まみれのシーツを手ににこにこと笑っていて…果ては恍惚としながらそれに舌を這わせる始末だ。
太子は入り口のそばの壁に背中を預けながら、今だに信じられない気持ちでそれを眺めていた。
包帯を替えにくるように女官に言われていたのを思い出して再び寝室を後にしたのでその後は分からないが、次に寝室に戻った時には新しい布団の横で「敷いておきましたよ」と微笑んでいたので、普通に仕事を全うしたのだろう。
白熱して自慰なんかに突入していたらどうしようなどと考えていたが、どうやら無駄な心配だったらしい。
無駄になって本当に良かったと太子は思う。
そういう安心の意味もこめ、やっぱりズレそうになる手の包帯をちょくちょく直しながら「ご苦労だったな」と言うと、妹子は予想外だったように目を丸くしてから満面の笑みを浮かべた。
にこにこ笑って「えへへ、ありがとうございます」なんて、もう年頃の男のくせになんて可愛いんだろうと思う。
ちょっと気味が悪いと思ってしまったさっきのシーツの行為の時でさえ、その時の妹子の笑みと言ったらゾクゾクするほど妖艶で仕方がなくて。
「…あれ?太子、包帯も換えてきたんですか?」
「ああ…しばらく一日に1、2回は替えに来いって」
面倒くさいよなぁと思いながら答えると、妹子は太子の手の真新しい包帯を見つめて顔を顰めた。
「…だったら、僕が換えますから」
「え?」
「太子がこの手を怪我してしまったのは僕のせいですから、せめてその償いをさせて下さい」
妹子が太子の手を両手で包み込み、切なげな表情でそっと呟く。
「そうでなければ、気が狂ってしまいます」
「………」
見た目はこんなに弱々しいくせに、声には妙に棘があって恐ろしい。
しばらく黙っていると、太子の手を包み込む妹子の手にぎゅうぅと力がこもってきていることに気が付いた。
このまま黙っていれば、それを拒否を取られてまた傷口に何かされかねない。
太子が空いた手で髪を撫でてやると、妹子は切なげだった表情を幸せそうな微笑みに変えてその手にすり寄ってきた。
太子も笑みを零し、妹子の頬に触れる。
――ああ、愛しい。
「妹子、ここで寝てく?」
「…いいんですか?」
「勿論。泊まっていきんしゃい」
そう言って笑うと、妹子は何かを思い出したように目を瞬いて……にっこりと、無邪気に笑った。
多重人格。
そんな言葉では説明できない何かが、妹子の中に巣食っていた。
どれも同じ一つの妹子なのだ。
太子を傷付けたり、これでもかというほど丁寧に包帯を換えていたり、どんなことをしていようと、これだけは変わらない。
どんな時でも等しく、太子を愛しているのだと、それだけは絶対に変わらないのだ。
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