恋愛狂騒

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あはは、なんて気分がいいんだろう!?

今まで僕の大切な太子に沢山ひどいことをしてきた最低な男の苦しむ声が聞こえる!

ああコレ、太子にも聞かせてあげたいなぁ。

きっと喜ぶのに…。

ああでも太子はとても優しい人だから、こんなの見たら怯えてしまうかな?

でもきっと喜んでくれる。

蘇我馬子?

人の名を借りた悪魔だ、畜生だ!!

こんなものは僕が退治するんだから!

こんなの生きてる価値なんかないんです。

太子にひどいことする奴ら全部、生まれた意味なんかないごみ屑です。

それを僕は掃除してるんです!


――ねえ、許してくれるでしょう、太子?





21・諦観





鼓膜を通って脳に届いた声に、振り上げた手が止まる。

馬子の目が妹子の背後を捉え、はくはくと唇を動かす。


「たッ…たい、し…!」

「馬子さん…ど、どうしたんですか?妹子、何して……」


戸惑うような声の後、すぐにハッと息を飲む音が聞こえ、妹子の腕に衝撃がきた。


「妹子!馬子さんからっ、離れろ…!何やってるんだ!」

「太子…?」


振り上げていた腕からボタボタと落ちた馬子の血が妹子の髪や顔を汚していた。

振り向いた妹子の姿に太子の顔が険しくなる。


妹子は理解できないでいた。


「太子……何故怒っているんですか?」

「え…?」

「僕、何も悪いことしてないでしょう。なのにどうして怒るんですか…?」

「…妹子…」


妹子の表情がくしゃりと悲しそうなものになり、太子が押さえた腕がフルフル震えた。

太子は怪訝な表情をする。

妹子の様子は、まるで母親に叱られた時のそれだった。



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