恋愛狂騒
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お腹の中に僕が出来たとき、どんな気持ちだった?
まだ幼い頃、母にそう訊いたことがある。
母は自分の誕生を喜んでくれたのだろうか。
精一杯に背伸びをして答えを待つ妹子に、母親は かつては膨れていた腹を撫でながら優しく笑ったものだった。
『大好きな人と一緒に生んだ、とても大切な子ですもの。貴方が生まれてきてくれて、本当に嬉しかったわ』
妹子は幸せに満たされ、無邪気に笑った。
19・悲痛
仕事に復帰すると、今度は太子が休みを取っているという話を聞いた。
妹子は驚いてパチクリと目を瞬く。
いつだって勝手にサボって遊び歩いていた彼が わざわざ正式に休みを取っているなど、彼の身に一体何があったというのか。
妹子は急に不安になった。
(まさか……体調でも崩したのか?太子に限ってそんなこと…でも、もし本当にそうだとしたら……)
心配しつつも妹子は考えた。
――変な太子。
僕がせっかく仕事に出てきたのに休みだなんて…。
あの汚らわしい女も消えたのに、休みだなんて……何だか嫌だ。
(太子、あの女が死んだこと……喜んでくれてますよね?)
昨夜の竹中の言葉が頭を過ってイライラする。
馬鹿馬鹿しい。
(太子は僕の……僕だけの……)
太子はきっと喜んでくれる。
太子はきっと僕だけを愛してくれてる。
――行かなくては。
(太子はきっと僕のこと、大好きだって言って抱きしめてくれる……)
もしそうでなければ、僕はどうしたら。
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