恋愛狂騒

□19
1ページ/3ページ




お腹の中に僕が出来たとき、どんな気持ちだった?


まだ幼い頃、母にそう訊いたことがある。

母は自分の誕生を喜んでくれたのだろうか。

精一杯に背伸びをして答えを待つ妹子に、母親は かつては膨れていた腹を撫でながら優しく笑ったものだった。


『大好きな人と一緒に生んだ、とても大切な子ですもの。貴方が生まれてきてくれて、本当に嬉しかったわ』


妹子は幸せに満たされ、無邪気に笑った。





19・悲痛





仕事に復帰すると、今度は太子が休みを取っているという話を聞いた。

妹子は驚いてパチクリと目を瞬く。

いつだって勝手にサボって遊び歩いていた彼が わざわざ正式に休みを取っているなど、彼の身に一体何があったというのか。

妹子は急に不安になった。


(まさか……体調でも崩したのか?太子に限ってそんなこと…でも、もし本当にそうだとしたら……)


心配しつつも妹子は考えた。


――変な太子。

僕がせっかく仕事に出てきたのに休みだなんて…。

あの汚らわしい女も消えたのに、休みだなんて……何だか嫌だ。


(太子、あの女が死んだこと……喜んでくれてますよね?)


昨夜の竹中の言葉が頭を過ってイライラする。

馬鹿馬鹿しい。


(太子は僕の……僕だけの……)


太子はきっと喜んでくれる。

太子はきっと僕だけを愛してくれてる。


――行かなくては。


(太子はきっと僕のこと、大好きだって言って抱きしめてくれる……)


もしそうでなければ、僕はどうしたら。










_
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ