恋愛狂騒
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カラン、と音を立てて落ちる刃。
赤い血が広がっていく様を、妹子はそっと見守っていた。
動かなくなった哀れな蝶。
あんなに汚いものだったのに。
薄汚れた白い肌が鮮血に満たされていく。
冷えていく身体。
血に濡れて固まり、艶めく髪。
「……死って」
――こんなにキレイなものだったんだ…。
18・秘密
「え?縁談取り消し…?」
「そうだ。急遽この話は無かったことにしてほしいと、相手の家から直々にな」
「今更何を言い出すのかと思ったものだ」と溜め息を吐いて頭を横に振った馬子は、珍しく苛ついているようだった。
あまり表には出さないようにしているのが分かるが、それでも長い付き合いになる彼を見て、気付かないわけはない。
「こんな調子で、太子はいつになれば結婚できるのか…」
「こ……今回は私、悪くないですよね?私が悪いみたいに溜め息吐かれても」
馬子から改めて視線を向けられた太子は慌てて顔を引き締める。
「………はぁー…」
「だーかーら何ですかその溜め息!」
「そもそも太子が早く話を決めないから悪いんだ…」
「あーもう聞きたくないですよ。私は聞いてません!」
耳を押さえて「あーあー」呻く太子を見かねた馬子が踵を返す。
「…あ、馬子さん。馬子さんやっぱり待って!」
「何かね?」
太子は両手を外して問いかける。
「そのー…なんでそんな事になっちゃったんですか?私…彼女となら結構仲良くなれると思ったのに…」
勿論、友達としてだが。
太子の数少ない理解者である彼女がもう会いに来ないのは寂しかった。
「…さあな。もう彼女には金輪際、会うことも出来ないだろう。人前に出ることが出来ないと言っていた」
「……人前に出られない?」
「用事があるから これで」と馬子が退室した後も、太子は一人でボーっと考え込んでいた。
「んー…頭からシメジが生えたとか?あっ、でも時期的に……いいなぁ、キノコ食べたい。あと犬飼いたい」
長い溜め息を吐きながら ぐったりと横たわる。
「……あの娘、元気かなとか…考えちゃいけないんだろうな…」
そんな気がした。
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