恋愛狂騒

□17
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からす

何故鳴くの

からすは山に

かわいい七つの子があるからよ


かわいい

かわいいとからすは鳴くの


かわいい

かわいいと




――泣くんだよ





17・制裁





ある日フラフラと散歩をしていると、太子の後ろ姿を見つけた。


「………太子?」


大きな石の前に座り込んだ太子は、その石を見つめて小さな声で歌っていた。

声を掛けると、太子は少しだけ妹子を振り返って目を丸くした。


「…妹子が…なんでここに…?」

「散歩していたら歌声が聞こえたので……どうしたんですか、太子?」


大きな石を見つめると、太子はサッと立ち上がって妹子の肩を押し、立ち去らせるように促した。


「………妹子、ここにいちゃ駄目だ。妹子は来るな……」

「どうしてですか?僕がいたら……」


いけないんですか?と聞く声は出て来なかった。

太子の顔が何だか必死だったのだ。


「………太子?」


まるでここが僕にとっては危ない場所だとでも言うような。

心配してくれているのだと分かると嬉しかったけど、だけどやっぱり解せない。


「太子、さっきの歌は何ですか?なんであんなに………」


悲しそうだったんですか?

その言葉も、言えなかった。


「――太子!」


妹子の声を、遠くから女性の声が遮ったからだった。

妹子が振り向くと、そこには美しい娘。

太子が素っ頓狂な声を上げた。


「な、なんでここにいるんだよ!?」

「あら、いてはいけませんか?私はお邪魔?」

「あ、いや…そういう意味じゃないけど…」


駆け寄ってきた女性は息を整えながら微笑む。


「結婚を約束してこなかったことを知った両親が躍起になって私を再びここへ向かわせたのです。それなら私はそれに甘えて太子のもとへ行くだけ。……目的は両親が思うものとは少し違いますけどね」

「!」


この女性が、と目を見開くと、女性は妹子を向いてお辞儀した。


「…貴方、小野さんですよね?太子からお話は聞いてます」


見るからに人の良さそうな美しい女性だ。

もし彼女と出会ったのが その辺の道端なら、妹子は彼女と是非仲良くしたいと思っただろう。

なのに今は、その女性が美しければ美しいほどに嫌に思えて仕方がなかった。

確かに摂政の伴侶には持って来いだ。

美しいし、品もある。

彼女の良さに比例して嫌悪も増幅した。


「……太子。素敵な人ですね」

「え?あ、うん…そうだろ?でも…」


太子はさっきからそわそわと落ち着きがない。

さっきも言っていたように、妹子がここにいるのがよっぽど不安らしい。

しかし今の妹子には、そんな太子の気持ちを汲み取ってやれるような余裕などない。

目の前の女が。

気に食わない。


――太子は渡さない。




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